家族のあやまち
私は、思い出した後すぐにまた眠りについた。
朝起きると落ち着きはすんなり取り戻せた。嫌われているのはいつものことだったから……。家族にも嫌われてるってだけだ。味方は多分いるはずだ。そうに違いない。
そう信じないと本当に壊れてしまいそうなくらい辛い。
こんこんとノックの音が聞こえる。そして、入ってきたのはお母さん、お父さん、美鈴だった。
「どしたの? あれ、美鈴学校は? お父さん会社いいの?」
「いいんだよ。それよりさ、美咲。何か思い出したかい?」
「……うん。まぁ、思い出したよ。ごめんなさい。今まで迷惑かけて。死んでしまってたら楽だったよね」
「「「…………」」」
三人とも黙ってしまった。
あの時死ぬことに成功していればもう割り切れていたんじゃないだろうか。美鈴だって自殺した姉の妹ってことが本当になるから受け入れることはできるだろうし煩わしいのが一人消えるから家計も悩みも少なくなりそうだ。
「なるべく早く家出て迷惑かけないようにするからさ……。許してよ」
「……すまん」
「なんで謝るのさ。悪いのは私でしょ。私がこんなんだから苦労かけて……お母さんたちのほうが辛かったんだから謝る必要はないよ」
「違う! 美咲。迷惑じゃない。美咲は家にいてもいい。迷惑をかけられるのは親の務めだって前に言っただろう」
「……だったらさ」
怒りが湧いてくる。
あの時は助けてくれなかったくせに、今更迷惑をかけろだなんてさ……。私だって出ていって迷惑をかけないようにしようと決意したのにさ。
「だったら、なんで味方になってくれなかったのさ。学校行きたくないって言っても他にも辛い子がいるから我慢しろとかいったのさ。いじめられてるからって言っても三年の辛抱だとか言ったのさ」
「……悪かった」
「いつもそうだよね。お母さんたちは私の味方になったことは今まで一回もないよ。美鈴と喧嘩したときも”お姉ちゃんだから”っていって美鈴の味方になった。あまり育ててくれた親に言いたくないけどさ……親はいらないよ。味方になってくれることもなかったしすべてが嫌になったよ」
なんで私はこんなことを言うんだろう。
心で思ってることが止まることなく口から出てしまっていた。
――ああ、そうか。
怒ってるんだろう。親に、美鈴に。思い出したことによって怒りがわいてきたんだろう。
「親って味方になってくれるもんだと思ってた自分が嫌いだし、美鈴たちもちょっと嫌いになりそう」
「すまん……! 味方になってやれなかった……!」
「謝ってほしいんじゃないよ。謝ってそれで割り切れるほど私は人間出来てない……!」
謝罪の言葉が欲しいわけじゃない。誠意が欲しいわけじゃない。
信用がほしかった。信頼がほしかった。私の言葉を親身になって聞いてくれる人がほしかった。私は一人で生きてくしかなかった。辛いことも、嫌なことも一人で抱え込むしかなかった。
自殺した理由が分かった気がするよ。
「……でも、記憶がなかったときは優しかったしそれは感謝してる。けど、それは罪悪感からでしょ? 罪悪感で優しくするのはもうやめてほしい。嫌なら素直に勘当でもなんでもしてほしい」
「するわけないだろう!」
父親が大きな声でそういった。
お父さんの目から涙がこぼれている。お父さんが泣いたところ初めて見た気がする。
「悪かった……。美咲は強いって慢心していた。どこか安心しきっていた。美咲なら耐えれるだろうって思っていた……。それが間違いだった。罪悪感で優しくしてたわけじゃない。それだけはわかってほしい」
「……わかったから頭上げて。さすがに恥ずかしいよ」
罪悪感からではないという言葉を聞いて、少しうれしい。
でも……信用していいんだろうか。信用するべきなんだろうか。
「お姉ちゃん。私にも怒ってよ……。私だってお姉ちゃんに……!」
「……怒ることもないよ。もう言い切ったから。美鈴だってつらかったのはわかるからさ。死ねとか思うのも無理はないって思うよ」
「……もう言わないよ。死ねとかもう言わない。だから…ごめん」
美鈴も頭を下げて謝る。
「も、もういいよ。許すから……。恥ずかしいから頭上げて! 真綾も見てるし恥ずかしいから!」
謝るのを辞めてもらった。




