天使メタトロンの絶望 ②
これはルシファーが堕天した時までさかのぼる――
天使長に抗議しに行った天使がいた。
「今すぐルシファーを天界に戻せ! さもなくば天界は崩壊する!」
「それは無理だな。ルシファーは禁忌を犯した。追放は当然だろう」
「あんな身もふたもない証拠をでっちあげて禁忌を犯した? ふざけるな!」
メタトロン。
メタトロンは天使長に必死に抗議しているけれど天使長はその話を一切聞いておらずつまみ出せと命令してメタトロンは天使長の部屋を後にした。
今の天界は崩壊していくばかりだ。ククールという天使も、ルシファーを蹴落として天使長になりあがった天使も、どれも使えない。権力欲しさに椅子に座ったお飾り天使長。
ガブリエル様が天界を去ってしまった。もう、この国は長くはない。だからこそ持ち直すためにはルシファーの復帰が不可欠なのに。
「どうしてわからないんだ無能天使長が……! 私が天使長になったほうが長く持たせることはできるのに……!」
ルシファーは優れた為政者になるはずだった。
メタトロンはルシファーを手助けするためにいろいろと準備していたし、次の天使長の椅子にはルシファーが座るはずだったのに。
「あんなやつが座ったら、天界は終わりだ」
私が今までルシファーのためにしてきたことはすべて無駄になった。
ルシファーが為政者になるためにしてきた準備にかかった期間は百年を超える。ルシファーのために天界の法整備をし、生まれた妹のために必死に天界のために働いて天界が住みやすくなるために努力をしていたのに。
すべて、すべて無駄になった。ルシファーがいた時はものすごく笑顔だった天界の天使は今の天使長になって笑わなくなった。
「私がしてきたことは、一体何だったんだろうか」
そうつぶやいて、レストランに入ると、思わぬ映像が流れていた。これは天界緊急映像。映っているのは天使長。
天使長は悲しそうな顔をして口を開く。
「メタトロンが、法律を勝手に作り皆様に多重な苦労を背負わせてしまったことを、ここに謝罪します」
という内容だった。
それを聞いて、メタトロンは茫然とその場に立ち尽くす。勝手に作り? 私が作った法律を勝手に変えておきながら……? 私が作った法律は決して厳しいものではなかった。むしろ、まっとうに作った。なのに、なんなんだよこの仕打ちは……!
「メタトロンは重罪人であります。今も逃げている模様。捕らえたら賞金を差し上げましょう」
「……なんだよそれ。なんだよそれッ!」
私が重罪人? 私が裁かれるべき悪なのか? それは違うだろう。
裁かれるべきは天使長。あんただ。住みにくい天界にしたのも全部お前のせいじゃないか……!
そして、映像は途切れた。
「……もうだめだ」
天使長は私を敵だとみなした。
私が苦労して住みやすくした天界も、一瞬のうちに無に帰した。私の苦労は何だったんだろう。なんで私はこんな天界の為に苦労したんだろう。
上が無能だと、こんなにも退廃していくのか。
「……おい、あれメタトロンじゃね?」
「まじで? 賞金首じゃん。捕まえようぜ!」
レストランの中にいるとそのような声が聞こえてくる。
私は急いでレストランから出ると、待ち構えていたかのように天使が私を捕らえようとしているのか縄どを手にしていた。
国民も、賞金欲しさに私を捕まえようとする。
「私がしてきた苦労は、なんだったんだよ……!」
涙が出てきた。
こんな利己的な天使のために私は身を粉にして働いてきたのか……? 私が天使を思ってた行動も、思考もすべて無駄だったのか――?
そう考えると、一気に自分がむなしくなった。
「――死にたい」
もう、生きる希望なんてない。
努力も否定されて、挙句には犯罪者。私が絶望するのに理由は事欠かなかった。
「……こんな天界くそくらえだ。賞金になるぐらいならいっそ自害してやる!」
私は以前悪魔から没収した天使を殺す矢を、自分の胸に突き刺した。
「ごめん、サンダルフォン。あなたを育てず一人で死んでいく私を許して……!」
そして、意識を失ったのだった。
努力を否定されたばかりか大事に思っていたものからも裏切られる。
メタトロンはひどく絶望したでしょう。ルシファーが天使長についていたら右腕になりえる存在だったんです。仲間思いでウリエル、ガブリエル、ラファエル、ミカエル、ルシファーの天使五人からも厚い信頼を寄せられていました。




