イナリの村防衛記 ①
うちはイナリ。ミキにつけてもらった名前を持つモンスターや。
見た目は可愛らしいけれど油断すんなや? うちはこれでも強いんや。街を闊歩すると子供が近づいてくる。狐さんだーと尻尾をモフモフしてくる。
その母さんは顔を青く染めているが。
「お母さん! もふもふだよ!」
「だ、だめ! す、すいませんイナリ様……」
「ええよ。坊主、うちの背中乗るか?」
「いいの!?」
「ええよ。ほら、乗り」
うちは座って子供が乗るのを待つ。
子供は怖いもの知らずなのか嬉々としてうちの背中の上に乗る。本来モンスターは気性が荒いんやで? うちが特別なだけで危機感は持つべきやで?
「お母さんも!」
「え、えっと……」
「ええよ。乗りや」
と、恐る恐る母親もうちの背中に乗る。立ち上がると子供は「おー!」と興奮したような声を出す。うちはそれがちょっと嬉しかった。
走ってみてというのですこし速度を抑え走る。
「どっか用ならそこまで連れてくで」
「あ、な、ならその、ユウマ村まで行けますでしょうか……」
「ああ、あそこの村な。少し遠いが大丈夫や。しっかりつかまりや! 飛ばしていくで!」
うちは颯爽とかけていく。
門で止められた。さすがに通行料は取るらしい。兵士がうちに恐る恐る近づいてくる。そんなビビらんでも手出しはせえへんのに。
「通行料です」
「た、たしかに頂戴した……」
門が開けられた。うちはそれと同時に走り出す。
「風気持ちいー! ね、お母さん!」
「うん、そうね」
母さんも慣れたのか普通の声音に戻っていた。
あれやな。乗せていくのを商売にするっちゅうのもありやな。移動手段は歩きしかないとか不便すぎやし、これでお金を稼ぐのもありかもしれん。いや、うちはそんな金使わへんけどな。使うとしたら油揚げ買うだけや。
「風寒かったらゆうてな」
ユウマ村についた。
ユウマ村の兵士はうちの姿を見た途端剣を構えたけれどすぐに下ろした。上にのっかっている人間を見たからやろな。
「到着やで。ふう、いい仕事したわ」
「ありがとうございます。その、お礼といったらなんですがうちでお茶でもどうでしょう」
「ええよ。気にせんでも……」
「とっても美味しい油揚げあるよ!」
「その話、詳しく聞かせてもらいまっせ」
美味しい油揚げなら別や。油揚げ評論家のうちをうならせるほどの油揚げはあるんか? 楽しみや。うちは油揚げに関しては厳しいで。
村に入ろうとすると、兵士が剣を向ける。
「も、モンスターはいれることができないんだ」
「ええ、うちだけ特例じゃダメか? 何もしないって誓うわ」
「信じられるか!」
「せやな」
うちも自分でいうのもなんやけど胡散臭いと思たわ。
人化の術は覚えておらへんしな。そもそも好き好んで人間になるやつはモンスターにはなかなかおらんし。ポセイは比較的人間好きだったから覚えてたっちゅうだけやしな。
「あれや。なんなら……って、うん?」
「ど、どうした」
「いや、待てや。うちに構ってる暇はないかもしれへんで。何やら……モンスターが大量にこちらに向かってるみたいや。山のほうから」
「な、なんだと!?」
「しゃあないなぁ。うちも手伝うからお礼としていれてくれや」
「わ、わかった!」
よし、魔物掃討作戦や。




