高いところがトラウマ
あー、体動かしたい。
ベッドで寝たきりだとそう思ってしまう。体力も絶対減ってるだろうし動かせないという窮屈感。それがもう半端ない。
体動かすのは嫌いじゃないし、たまにランニングとかして発散しているぐらいには結構動かすのは好き。そもそもスポーツも結構好きだしね。
ただ、スポーツ番組は見ないんだよな。私は観るよりやる方が好きだし。
「あー、野球やりたい! バッターで!」
投げるのは無理だけど。守備に回ると多分キャッチはできるけどリリースは無理だ。だってノーコンだし。あれだよ。やることといったら煽ることぐらいだよ。ピッチャービビってる! ってね。それはバッターの方か。煽るの。
「体動かしてないから結構鈍ってるんじゃないかなぁ」
ゲームみたいな体術はできないと思うけど、現実世界でもそれなりには運動神経あるほうだ。少なくとも、体育教師を目指してるくらいにはある。
「おねーちゃん!きたよ!」
「ん?」
突然病室の扉が開かれた。
そこにいたのは男の子とその母親。この子は、たしか助けた子だ。名前は天海 丸。丸君と呼んでいる。
「おー、来たかー。今日は何で遊ぼっか」
「んーとね! かくれんぼ!」
無理だよ。
そういいたいけどそんなキラキラした目で見ないで欲しい。
「丸! お姉ちゃんは足を怪我して歩けないから違うのにしなさい」
「えー、じゃあオセロやろ!」
「それぐらいなら」
丸くんはオセロのボードを取り出してあの白黒としたリバーシの駒? そのままオセロ呼びするか。オセロをばらまいた。
そして、その半分くらいの数をもらって私は真ん中に白と黒を配置する。
「先攻どうぞ」
「おーし! 俺強いからな」
私の勝ち。
獅子はウサギを狩るのも本気を出すんですよ。というか、露骨に角を狙いにいったんで誘導はしやすかった。所詮は子供といったところだろう。
角を狙おうという意図がバレバレだし周りを見なかったから結構余裕。
「負けたー!」
「はっはっは。いてて……」
体を少し伸ばしたら足に痛みが走った。
いや、まじで早く治したい。
「大丈夫ですか!?」
と、痛みが走っただけなのに母親の人は私に駆け寄ってくる。
気が気じゃないのかな。そもそも、謝りに来たときはもう地に頭をつけるくらい深々と礼をしていた。ありがとう、ごめんという言葉を聞き飽きるほど聞いた。父だと思われる人もありがとうと何度もお礼を言われた。
ありがとうって言われただけでちょっと嬉しい。
「気にしないでいいですよ。それにしても、元気ですね」
「え、ええ。あれから高いところに上らなくなったぐらいで……それを除いたら元気です」
さすがにトラウマになったか。
三階から一階まで落下していくんだ。面白いと思えるわけがないんだよ。ジェットコースターとかフリーフォールならともかく、下にクッションも何もない地面に真っ逆さまに落下していく恐怖。さすがに私でもちょっと怖かった。
「あれは怖いですよ。幼い子には衝撃が強かったと思います」
「そう……ですね」
「高所恐怖症になったかもしれないのでケアはしてあげてくださいね」
「わ、わかりました……」
高いところが嫌いなのはダメというわけじゃなくて、子どもはできないと泣いちゃうから。行きたいけど怖いからいけないとか嫌なんじゃないかなって思う。
だからそのケアが大事。
……ま、高いところから何回も落ちたら恐怖はなくなるけど。
私はそう思ったのだった。




