閑話 酒
とある居酒屋。
スーツを着崩した女性がビールを片手に枝豆を食べていた。
「生き返るー! 二十歳になって酒飲めるようになったからなぁ!」
「珠洲。飲みすぎ。明日の仕事に響くんじゃない?」
「あはは」
珠洲がビールを飲んでいた。
飲んでいるのは真野ちゃん、美咲、珠洲、標、朱音、地衣、真綾。女子会みたいなものだった。真野ちゃんはちびちびと日本酒を飲んでいるし、真綾は普通にレモンサワーを飲んでいた。
美咲はお酒がダメなのか、烏龍茶を飲んで、揚げ出し豆腐を食べている。
「それぞれお仕事大変そうですねえ!」
「私はまあ、今まで通りだけどね」
「私は俳優業も増えたことぐらいだしいつもと変わらないかな」
真野ちゃんと真綾は相変わらず女優とモデルを続けているそうだ。
それぞれが就きたいと思っていた仕事につけている。朱音も、立派に高校の教師になっていた。本来は小学校にいきたかったらしいけど。
「うーん、居酒屋って雰囲気だけで酔っ払ってくるよ。私車なのに」
「まぁ、会社帰りのサラリーマン多いからね」
夜の七時だからだろう。
「で、朱音ちゃんと美咲ちゃんは広瀬先生と霧崎先生になったんだ」
「同じ高校だしね」
「私が体育で、朱音がなんだっけ?」
「現国」
「あー」
そこまで得意だったという印象はなかったし、逆に苦手だったような気もしたけれど。
「美咲ぃ! のでるか」
「舌ッ足らずだしのでるかって何」
「すっかり酔っぱらってるね」
「美咲ぃ! のめのめ! うまいぞ!」
絡み酒か……。
珠洲は酒を飲むけど強いわけじゃない。結構序盤に酔っちゃうほうだ。で、酔うと絡んでくるし、最終的には泣く。泣き上戸もあるとか意外ときつい。
「それより明日二日酔いになっても知らないよ。そのへんでやめといたら?」
「まだたりなーい!」
「足りてると思うけど」
珠洲がまたビールを注文した。
「大将、テレビの取材いい?」
「どうぞどうぞ」
「ありがとうございます」
玄関のほうが騒がしい。
どうやらテレビの取材があるらしく、タレントの人が居酒屋内に入ってくる。そして、きょろきょろし始めていた。
そして、私たちと目が合う。
「こちらの女性たちのもとで相席を交渉してみましょう」
と、タレントの人たちが声をかけてきた。
「すいません、俳優の山田 太郎之介と申しますが相席してもよろしいでしょうか?」
「別に構いませんよ」
「ありがとうございます。テレビ大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。テレビ慣れしてる人もいますから」
「……えっ、真野ちゃん?」
「どうも」
タレントの人は驚いていた。
マジのプライベートだし取材があるとかそういうロケだとかいうのなら多分連絡をくれたはずだ。マジの偶然だろう。
「うわ、すごい偶然! オファーも何もしてないですよね?」
「今はマジのプライベートですね」
「プライベートなのにテレビださしてすいません。相席いいでしょうか?」
「どうぞどうぞ」
と、そのタレントの人が席に座る。
『なんと次の居酒屋で相席を探していると思わぬ偶然が!』
そのテレビが放送されている。
私はソファーに座り、本を読んでいた。
『女優、生出 真野さんが偶然居酒屋で飲んでいた! 女子会にお邪魔させてもらった!』
こう、写ってるのがオンエアされるとちょっと恥ずかしい。
『みなさんお仕事はなにされてるんですか?』
『えっと、私はゲーム会社に勤めてます。明日仕事でーす!』
『ボクは会社勤めです』
『私は一応料理人でーす』
『私とこの広瀬さんは高校の教師です』
意外と恥ずかしい。
真野ちゃんすごいな、と改めて思った。




