それぞれの進路
こんこんと、病室を叩いて入ってきたのは珠洲だった。
珠洲は、真面目そうな顔をして椅子に座る。いつもと違う珠洲の雰囲気にのまれ、私は何も言えなかった。珠洲が、口を開く。
「美咲。私、決めた」
「決めたって……なにを?
「行く学校」
と、珠洲がそういった。
受験生。行く学校も決めなくちゃならない。私は近くの体育大学いって体育教師になろうとは考えている。珠洲がゲームの関係につきたいとか言っていたような。
近くでそれを学べるとなると……。原西情報大学か?
「私、北海道行くよ」
「……は?」
「北海道の情報大学行くことにしたんだ」
珠洲は私の目を見つめてそう言ってくる。
北海道……。なぜわざわざ遠くの北海道の大学に行くんだろうか。情報大学なら北海道じゃなくてもあるし、なんなら東京のほうがいい気もするけれど。
でも、珠洲が選んだんだ。私がとやかくいうことはできないと思う。
「そう。頑張って」
「……え、それだけ?」
「そうだけど、なにか?」
「てっきりいかないでとか止められると思ってた」
「止めるつもりはないよ。珠洲が選んだんだしそうしたらいい。けど、なんで北海道なのか教えてほしい」
それだけが気になる。
「美咲がいないところに行こうと思ったから」
「それだけ?」
「うん」
私がいないところ。
もしかして、飛行機使わないといけない距離だから? そら、新幹線とか乗ってくればこっちにこれなくもないところが多い。私に安易に会わないように……?
私離れ……。いや、多分私のためだ。珠洲は私が珠洲に依存してるんだと思ってるのだ。多分、実際そうだ。
「美咲に会えないとなったらさ、いざとなったら美咲ってことが通じないんだよ。だから、飛行機乗ってしかいけない北海道に決めたんだ」
珠洲がそう笑った。
北海道。正直いって冬大丈夫だろうか。冬あれだぞ。多分自転車乗れないぞ。
まぁ、それはおいておいて。珠洲がそう決意したんだ。遠くに行こうと決意した。珠洲も、もう私を頼ってばかりじゃなくなる。その成長が嬉しくもあって、ちょっと寂しい。
「こうでもしないと、私はいつまでも美咲に頼るから。うん。だから、しばらく……美咲の近くにはいることができない」
「そう。わかった」
珠洲にそう返すとまた病室の扉が開かれる。
朱音と標がそこにたっていた。標ちゃん名前で呼んでほしいって言われたから呼ぶことにした。
「お、二人でなんか話してた? 邪魔した?」
「いや、いいよ。進路のことだし」
「進路? あー、そっか。私たちもう三年生だもんね」
朱音が椅子に座った。
「みさと珠洲ちゃんはどこいくの?」
「私は近くの体育大学。珠洲は北海道の学校」
「え、遠っ!」
「あはは……」
素で驚いたような声を出している。
「朱音と標は? どこいくの?」
「私は……その、教師になろうかなって」
「私と同じじゃん」
「うん。その、私っていじめてたでしょ? だからいじめっ子の気持ちもわかるし、いじめっ子の心理もなんとなくはわかるからどうやったらやめさせることができるかとか、わかる気がするし」
「蛇の道は蛇って感じだね。ボクはとりあえずお嫁さん」
「…………」
「冗談だよ! 本気にしないで欲しいなぁ! ボクはまぁ、何になりたいか、だとかそんなのはないし、適当な会社に入社してって感じになるよ」
前の私の考えだ。
やりたいこともないのなら何をするかが決まらない。まさかゴレオムの搭乗員になりたいとかいえるわけがない。
「みんな、進路考えてるんだ」
「嫌でも考えなくちゃならないからね」




