姉・妹 ①
入院も三回目だしちょっと慣れているのもあってすんごいくつろいでいる。
というか、何もすることがないと暇なんだよな。ゲームも今やらないほうがいいよって止められたし窓の外の景色を見るしかない。
本当に、暇だ。
と、思っていると何やらでかい声が病室に響く。
「あんたのせいで私は……!」
「なに、やるの?」
島田さんの声だった。
物静かそうな島田さんが怒鳴っていることで私たちは珍しいなと思ってみている。島田さんはその女性の胸倉をつかみ、そして、離した。
「殴らないの?」
「……殴ってもすかっとしない。出てけ。私の目の前から」
「……ちっ。せっかくお見舞いにきてやったのによ」
と、去っていく。そして島田さんはこちらの視線に気づいたのかごめんなさいと謝ってきた。
「さっきのは私の妹です。ろくでもない不良で」
「……なんで喧嘩してるのさ」
「些細なことです。私の……私の物を奪っていきました」
と、話し始めた。
妹さんの名前は島田 咲。一個下の学年で中学二年生らしい。
島田さんはもともと写真部で写真を撮ることが好きだったのだけれど、その大事にしていたカメラをなくされてしまってキレたら逆ギレされたとか。
失くされたのも自分のお小遣いを必死こいて溜めた一眼レフで結構高いのだったらしい。もう自分の金では買えないだろうし、親も趣味なんだから自分の金で買いなさいと言っているらしい。
「私は、もう怒ってないんです。けど、あの態度がムカつくんです」
「そう」
「きちんと謝ってくれたら、私は許したんですけど、まだ謝ってくれる気配がないんですよ」
「……恥ずかしいんじゃないかな」
「かもしれませんね」
と、島田さんは笑う。
妹に迷惑をかけられるのは姉の宿命だし、迷惑をかけることもある。お互い様なのだ。私だって、美鈴にはたくさんの迷惑をかけた。いや、かけすぎた。
自殺をしたことで、自殺者の妹だと蔑まれていたことも知っている。それを知ってどうにもできなかった私自身が嫌いだ。美鈴にも辛い目を強いた私も嫌いだ。
美鈴は姉妹なんてそんなもんだと強がってたけど、泣いてたのを知っている。
「咲ちゃんはたぶん陰でせめてるんじゃないかな。自分を。なんとなく、優しいことはわかったよ」
「……反省なんてするんでしょうか」
「する……と思うけど」
根はいい人だとかいうつもりはない。けど、声が少し震えていた。怖いと思っていたのか、怒られると覚悟していったのか。どちらかだろうけど……。でも、悪い子ではない。
「でも、姉なんだから信じてあげなよ」
「……そうですね。咲も、信じてみようかな」
「そのほうがいいよ。疑ってばかりだと疲れるからさ」
私はベッドに寝転ぶとまた、咲ちゃんが入ってきた。手には何やら紙袋を持っている。そして、その紙袋をベッドの隣に置くと、何も言わずに去ろうとしていた。
それを「待って」と島田さんが止める。
「……なんだよ」
「なにこれ」
「カメラだよ。その、悪かった。あのカメラの代わりといっちゃなんだが、親の手伝いとかして必死こいて溜めたお小遣いで買った。その、あの時は私も気が立ってたし八つ当たりしたんだと思う。ごめんなさい」
「……別にいいよ。謝ってくれたから許す」
「……その、なんだ。今度から気を付ける」
「うん。そうして」
と、島田さんは笑顔でこちらを向いた。
嬉しかったんだろうか。いや、嬉しいんだろうな。




