月夜は冷たく嘲笑ひ ⑥
うちのご主人様は、大層うちのことを気に入ったようだ。
「ねえ、もふもふしていい?」
戦闘中にも関わらず、うちの立派は尻尾を手でもふもふしてくるのにそう聞いてくる。緊張感がない。これでいいんやろか。
……なんでポセイも触ってくんねん。戦闘に集中しいや。
さて、うちの眼も強化された。
今なら透明も見渡せる。この目はなんでも映す。曇りないこの眼に小細工は効かへんで。なぁ、満月よ。勝ち誇った顔をしているようやが、そこまでや。
格が違うんや。うちとあんたじゃ。
「そこや」
うちは前足で思いきり蹴り飛ばす。
虎は思い切り吹き飛んで死んでしまった。この状態は、いわゆる覚醒したようなもん。潜在能力を最大限引き出した今、自惚れではないが神の領域に足を踏み入れている。
普段の状態だとSランク指定されとるが……。この状態だと、人々からは神獣と崇められておる。うちを敵に回したことを悔しく思うんやな。
「終わったで。さて、この状態を……」
「「えっ」」
「……なんや。そんなこの世の終わりのような顔して。別にこの姿でなくとももふもふできるやろ」
「いや、このもふもふが一番最高なんだけど……」
「わがまま言うなや……」
この状態でおられるのも朝までなんやけど。
そして、この状態でおるとものっそい疲れる。あまりこのモードになりたくないんやで。ものっそい疲れがうちを襲うんやからな。いや、ほんまに。
「とりあえず帰るで。もう虎も倒した。終わりやろ」
「あ、うん。そうだね。たしかにアナウンスが流れてきた」
アナウンスってなんや。
ま、ええわ。うちは通常状態に戻ると二人が恨みがましいような目でうちを見つめる。そんなにもふもふしたかったんやろか。ポセイ。あんたはクールなやつやと思ってたんやけどな。
うちの魅力そんなにあるんか。照れるわ。
すると、うちらの前に一人の青年が現れた。
「見つけた。月下狐」
男の手にはナイフを持っている。
すると、青年はそのナイフでうちめがけて突進をしてきた。躱そうかと思たが、青年はうちを恨めしそうに見ている。しゃあない。これぐらいで死ぬわけないし受けてやるとしよう。
人間を手にかけるときから覚悟はしておった。その者の仲間や家族が復讐に来るだろうと。前までは返り討ちにしていた。が、今はそう簡単に反撃するわけにもいかんしな。
「よくも僕のお父さんを……!」
「……ああ、前に来た兵士の息子か」
「よくも父さんを殺したな……! 俺がお前を殺してやる!」
と、何度もナイフで刺してくる。
ちくちくとする痛みがやってくる。ダメージ自体はそれほどでもない。人間っちゅうのは無駄に仲間意識が強いなぁ。とくに家族ならなおさらやで。
「そこらへんにしておきなさい、青年よ」
と、ポセイが青年の腕を掴む。
ぎりぎりと音がする。青年は苦しそうにしている。ポセイも力を込めとるな。いや、本気の力なら青年の腕が折れとるが……。
ま、ええわ。これも仕方ない。うちらだって魔物やからな。手加減してくれてるだけ有難いと思え。
「復讐のためにうちのとこに来たんか。無謀やなぁ。うちがこういう性格だからよかったものの、うちじゃなかったら簡単に返り討ちにされとるで」
「うるさい! 僕は……!」
「それに、死んだから言うがあんたの父さん、自分で進んで殺されに来たんやで」
そういうと嘘だと叫ぶ。
ま、魔物のいうことは信じないっちゅうのは当たり前やな。うちやポセイは温厚だからともかくうちらのようなもんは逆に少ないしな。警戒して正解なんやけど……。
「信じなくともいいわ。ただ一つ言えるのは、自分の父さんの病気にも気づかず死んだ後に復讐だなんだのと因縁吹っ掛けるのは都合よすぎる話やな。生きてる間はどうでもいいようにしていたくせに、死んだ後に復讐だなんだのと言うのは、やはりお前が人間やなって思わせてくれるわ」
これだから人間は……。別に嫌いでもない。
人のためだなんだのというけれど、本質は自分のためや。噓も方便というやろ。それや。欺瞞や嘘で塗りたくられた。それを見るのが滑稽であり、面白いんやけどな。
「うちはその人間の誇りを尊重して殺してやった。普通の人ならば諦めるな、というが、うちは魔物や。人間じゃないからそこらへんはわからん。自分がした判断が正しいのかもようわからん。だが言えるのは、お前はまちがっているということだけや」
そう言い残して私はミキたちを背に乗せ野原をかけていく。
ポセイもドラゴンになり背中に連れてきていた人間を乗せているようやった。




