月夜は冷たく嘲笑ひ ⑤
透明化している満月に攻撃を加えていって、とうとう半分まで削る。
「さぁ、ここからが本番や。あいつピンチになったら本気モードはいるんやで……」
「え、なにそれ」
聞いてないよ。
と、虎の姿があらわになった。と思うとまた消える。今度は私もまた見えなくなってしまっていた。気配を完全に消している……?
なるほど、これが厄介な点だな……。体力はそれほどないけど見えない。
「本気モード。うちらは……虎空状態と名付けとる……。月下狐族でもこのモード相手するのは嫌なんや……。気配も完全に消え、うちらも手探り状態で探さないとならん」
なるほど。
私たちも見えない。どうすればいいんだろう。透明人間……もとい、透明虎と戦うにはどうしたらいい? 見えないと躱しようもない。
だから、攻撃をかわすには勘……。運ゲーか……。
「見えないというのが厄介なんやなぁ。本気モードだしたくはあらへんし……」
「本気モードあるの!?」
「あるで? 満月の時限定やけどな」
「まじで!? 第二形態あるとかかっこいい!」
「せ、せやろか?」
「見たいみたい!」
「しゃ、しゃあないなぁ! よく見とけよ!」
いいなぁ! ラスボスっぽい……。あれ、何私ラスボスっぽいことに興奮してるんだ。
第二形態があるとかラスボスの定石だよな……。第一形態倒して第二形態で本気モードとなる……。それ自体結構好きなんだよ。
すると、イナリの体が光り始める。白かった体に赤い線が引かれていく。歌舞伎のメイクみたいな感じとなっている。目のあたりも赤く染まり、赤く光る。
「この目は……見るべきものが見れるなぁ」
「……これだよこれ」
「ご、ご主人様が興奮しておられる……?」
「なにそれ! かっこいい!」
尻尾ももふもふ感増してるし! もふもふしたい! なにより第二形態がものすごく美しい! 私の好みにドストライクなんですけど!? 狐自体好きなんだけど、これはやばいです……。
真野ちゃんが狐耳のカチューシャを付けたときがあって、その時は鼻血を出して失神した。推し×推しは血液が不足しがちになる。萌え殺されるところだった。
「……第二形態あるのは羨ましくなりました」
「しゃあないやろ。ドラゴンらは第二形態あったら地獄やで? 第二形態あるからこそ対抗できるんや」
「凛とした佇まいもそうだけど、凛々しくかっこいい! さらに第二形態でこんな美しくなるとか私を殺す気か! 現実でも死にかけてるのにこっちでも死にかけそう!」
「し、死ぬなよ? 死なれたら困るんや……」
「……わが生涯に一片の悔いなし」
「死ぬなっちゅうとるねん!」
いやはや、イナリちゃん最高です。満腹です。
ミキちゃん以外と変身ものとか好きだったりする。
トランスフォーマーで興奮するという少年心を持っているのは多分胸がないから……。




