珠洲の決意
入院生活二日目。
念のため三日間入院するようだった。二日目の朝を迎えて私はすることがないので窓の外を見ていると扉が開かれる。
「美咲。いる?」
珠洲の声だった。
会わないんじゃないだろうか。いや、それはいいとして。
「いるよ。迷惑かけたね」
「いやいや。謝りに行ったら倒れてるもんだからビビったよ。……ほんと、無事でよかった」
珠洲が少し涙を流した。
「それと、ごめんなさい。約束を破った事、謝るよ」
「……いいよ。気にしてない」
珠洲は深々と頭を下げる。
そんな珠洲を見ていると少しほっとしたような感じがした。
「その、さ。昨日一晩考えたんだよ。改めて」
珠洲は話を切り出した。
一晩、何を考えたんだろう。そう思って珠洲の眼を見ると、珠洲はまっすぐな目をしていた。今まで見なかった珠洲の眼の鋭さ。
なにかを決意したかのような、そんな感じがする。
「私、このままじゃいけないんだって、そう考えたよ」
「……ふぅん」
珠洲がそこまで深く考えるなんて珍しい。
でも、こういうことを考え始めたんだ。成長した……してきている。そういっていいのかな。珠洲は少し変わり始めたようだった。
「美咲もさ、昔と変わらないって言った。その通りだと思った」
珠洲は昔を懐かしむかのような顔をした。
「私は昔から変わってない。変わろうとしなかった。傷つくかもしれないけど、美咲みたいにいじめられていなかったからこのままでいいんだって思い込んでたんだ」
珠洲は微笑んだ。
いつもと違う珠洲の雰囲気に私は思わず飲まれてしまい、黙り込む。
「要するに、今まで変わることを拒んでたのかもしれない。だけど……それじゃいけないんだって、美咲に叱られて感じたよ。気づかせてくれてありがとう」
「え、いや、別に……」
なんていえばいいんだろ。
変わろうとしているから、頑張れとでも応援するべきなのだろうか。
変わろうとしているというか、大人になろうとしている。珠洲は。
まだまだ子供である私と違い、珠洲は立派に大人になろうと決意したらしい。そんな風に思える珠洲が少し羨ましい。
でも、羨ましくても妬ましくても、変わろうとする幼馴染はほうっておけない。
「これからはちゃんとやる。部屋の掃除も、勉強も。自分でやれるところは自分でやる。けど、わからないところあったら聞きに行くよ。だからさ、美咲も……なにかあったらうちにきて。美咲はさ、先を急ぎすぎなんだよ。はるか遠くに行っちゃってさ、それに私も甘えてさ……。こういうことってあまりよくないんだと思う」
先を急いでいる。そんなはずはない。
私はまだまだ子供だ。わからないことも、手あたり次第でやるだけ。大人なら、きちんとやるべきこともわかるんだろう。
「美咲ももっと人に頼ってよ。私だって美咲に目いっぱい迷惑かけたのに美咲は私に迷惑かけないじゃん。なんか不公平だよ」
「といわれても……」
そもそも私はそこまで人に頼る性分じゃない。
自分でできることは自分でするし、自分で楽しむことのほうが多い。人に頼るなんてことは恥……だなんて思ってないけれど、頼みづらいというのもある。
どう頑張ってもできないことなら頼むんだけどさ。
「美咲はもっと人を頼るべきだよ。私もそうだけど、お母さんもたぶんもっと頼ってほしいと思ってる。だから、頼って」
珠洲は私の眼を見てきた。
思わず恥ずかしくて目をそらす。
「……私からは終わり。これ、お見舞いの品。それじゃ、私、帰って勉強するよ」
「え、あ、うん」
珠洲からお見舞いの品をもらう。
レジ袋を開けてみるとゲームソフトが入っていた。うん、やっぱ珠洲だ。
珠洲ちゃんもやっと大人になろうとしている。
美咲ちゃんは急ぎすぎた足を少し止めた。
案外同じ位置にたてるのは近いかもしれない。
珍しく真面目モードです。




