閑話 母の寂しさ
美咲の家。
二人の女性がお茶を飲んでいた。
「美咲ちゃん、大丈夫?」
「なんとか無事よ。帰ってくるときに連絡が来たもんだからびっくりしちゃった」
美咲の母と、珠洲の母。
二人の母親がお茶を飲んでいる。
「珠洲ちゃん、うちの美咲を怒らせたみたいね」
「ものすごく怒鳴ったらしいからねぇ。美咲ちゃん優しいから怒った姿が想像つかないわ」
しみじみと会話をしていた。
話題は珠洲と美咲の事だけであるが。
「勉強せずにゲームをしたから怒られたのよ。約束を破ったらしいわ。約束破る珠洲が悪いし仕方ないわね」
珠洲の母はそう笑う。
どちらも、基本的には放任主義だ。珠洲の母は珠洲の成績を目にして心を鬼にしているが、勉強以外は基本的に自由にさせている。
自分で考え、自分で行動し、自分で責任を取る。これも一種の教育なのかもしれない。
「珠洲はまだまだ子供。美咲ちゃんが羨ましいわ」
「いやいや、手のかかる子ほどかわいいもんですよ。美咲は大人になりすぎて可愛いという感情より寂しいっていう感情がすごいです」
美咲の母も苦笑いした。
美咲は出来すぎた。自分で考えることもすべてできてしまう。自分の子でありながら自分がおいていかれているという感覚が美咲の母を苛んでいた。
「美咲は、昔いろんなことがあったから……その経験からかもう、大人になったの。それが嬉しくもあって……寂しい」
「……広瀬さん」
「もうちょっと甘えてくれればいいのにっていっつも思うの。人に甘えることは珠洲ちゃん以外にいないのよ」
美咲は珠洲に甘えている。
依存しているといってもいいのだろうか。お互いがお互いに依存しあい、結果が美咲の叱り。
「美咲ちゃん優しいから迷惑をかけたくないとか思ってるんじゃないかしら」
「たぶんね。あの子は優しいのよ」
お茶を飲み干した。
美咲の母は一抹の寂しさを抱える。美咲が大人になっていくにつれ、寂しさが残っていく。もっと頼ってほしかった、というのが母の本音だ。
「寂しいなぁ……。子供を送り出した母親ってこんな気持ちなのかしら」
「こういうときは父親の無神経さが羨ましく思える。もっとも、うちの珠洲はまだまだかかるでしょうけど」
「珠洲ちゃんは美咲の逆ですしね。優しいのだけれど……その、言ってはなんですけど子供っぽいというか」
「自己抑制力がありませんから。ほとんど美咲ちゃんを頼りにしていた分、珠洲は美咲ちゃんに依存しすぎていますね」
ある意味正反対の二人。
美咲は嫌とか口で言いながらも珠洲の世話をし、珠洲はそれに頼り切っている。その関係性が今の今まで続いていた。
「でも、珠洲ちゃんもきっと大人になりますよ。嫌でも大人にならないといけないんですから」
「そうね。その時を待つばかりだわ」
二人はそういって微笑んだ。
美咲ちゃんは先へと急ぎすぎた
珠洲ちゃんはゆっくりと歩きすぎた
正反対だからこそ釣り合うのかもしれない。




