入院 ③
真野ちゃん達も帰っていき、夜となった。
私、夜の病院嫌いなんだよね。いや、あのさ、怖くない? 夜の病院って。病院って……出るでしょ? だから個室は無理なんだけど……。
「……怖い」
夜の病院にはお化けが出る。
なんでこの日に限って誰も入院してないんだ……。ちょっとトイレ行きたいのに夜の病院の廊下怖くて歩けない。けど行きたい……。
私の寄せては返す尿意の荒波がすごい。だけどビビってる。
「お化けなんてないさおばけなんて嘘さ……」
い、いざ……!
私は勇気を出して部屋の扉を開けると、廊下から「カツン、カツン」と足音が聞こえる。それを聞いて私は扉を閉めた。
あれはきっと幽霊だよ! 絶対幽霊だって! こんな真夜中の……草木も眠る丑三つ時の病院を徘徊する人はいない!
やめて、まじでやめて……。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
そう唱えながらまた扉を開けると、今度は人魂が見えた。
私は勢いよく扉を閉める。
「なんかいたなんかいたなんかいた」
人魂まで見えてしまった。
すると、コツン、コツンと足音がこちらに近づいてくる。こちらに向かってきている……?
気づかれた……?
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
私は必死にそう唱えながら足音が止むのを待つ。
足音は次第に大きくなっていき、私の部屋の前で音がしなくなった。……部屋の前にいる!
私は、そーっと扉を開ける。するとそこにいたのは……。
「どうかなさいま」
「うわあああああ!? ゆーれいだあああああ!?」
「ちょ、お、落ち着いてください!」
私はベッドに勢いよく駆け込みシーツに覆いかぶさる。
怖い怖い怖い! なんでトイレしたくなったの私! すぐに眠れ!
「私です、真壁です」
「……へ?」
シーツから顔を出すとたしかに真壁さんがいた。
え、な、なんで歩いてるの?
「見回りしていたらここらで扉の音が聞こえたので来てみたのですが……。どうかなさったのですか?」
「え、い、いや、トイレ行こうと……」
「そうでしたか。なら、どうぞ」
と促してくる。
が、私は動けなかった。
「……その、ついてきてもらっていいですか?」
「……わかりました」
なんとなく真壁さんは高校生にもなって幽霊コワイのかとかそんなこと思ってそうではある。だって怖いんだもん。仕方ないじゃないか。
男子ならまだしも、女子は個室。つまり、一人になるっていうことだし、それにトイレって言ったらあの会談を思い出す。
花子さん。やめてね、でないでね。
トイレを済まし、真壁さんと一緒に部屋に戻る。
真壁さんは結構いい人で話し相手になってもらっていた。結構打ち解けたと思う。今度家に行く約束した。真野ちゃんのDVDを一緒に見ようってことになった。
「それにしても高校生でトイレ一人で行けないのはまずくない?」
「……だって幽霊コワイんですよ」
「物理技効かないもんね」
「あと、急に来るので心臓に悪いんです」
「わかるわー」
完全にオフのテンションになっていた。
真壁さんは真野ちゃんのファンだっていうことで意気投合している。通じるものがあると仲良くなれるもんだな!
「まぁ、携帯に電話してくれたらトイレまでついていってあげるから」
「頼みます。夜の病院おっかないんで」
「そうだね。じゃ、おやすみ」
「おやすみです」
ぐっすり眠れた。
夜の病院と夜の学校って怖いですよね。




