珠洲の初恋の相手 ①
「広瀬さんって神林君となんにもないんだよね?!」
朝、登校してくるとそう聞かれた。
ないよと答えると、女子が「なら私アタックしちゃおー!」と意気込んでいた。青春だねえ。神林の分際でモテてるとか腹が立つな。神林のくせに。
でも、今年が最後の年だから恋を終わらせたい、というのもあるのかもしれないな。もう会えなくなるんだろうしな。
「恋なぁ」
「あらら、美咲が恋とかいうの珍しいね」
「そりゃ恋してる女子たちを見たら考えざるを得ませんよ」
私は初恋すらまだだと思う。
好きな男性はいない……。できたためしがない。クラスで話題のイケメンも、アイドルにもそんなに興味がなく、好きだって思える人がいないって言うのも事実。
「まさか恋に興味持った?」
「んなわけ」
「だよねー。でも、美咲って結構モテるからね?」
「え、まじで」
「クラスの男子が私に”広瀬さんって彼氏いるのかな”って聞いてくるんだよ」
地衣が呆れた顔で言っていた。
そういう割には告白も何にもされないけど。せき止めてくれているのだろうか。だとすると悪い気がするんだよな。
「まぁ、神林君が止めてくれてるんだよ。広瀬さんそういうの好まないからって」
「え、まじで」
あの神林にしては気が利くじゃないか。
あとでなにか奢ってあげよう。告白とかそういうのは遠慮したいものだ。いや、でもせき止めてる割にはあいつ告白してきたよな?
やっぱ奢るのなしだわ。
「まぁ、別にもう告白もいいかな。どうせ最後の年なんだから後悔は残させたくないよね。どっちにしろフるけど」
「あはは。逆に酷だよね。結果目に見えちゃってるし」
「たぶん死ぬまでこうだろうなぁ」
「生涯独り身で過ごすっていうのも結構嫌じゃない?」
まぁたしかに。
孤独っていうのも辛いものがあるな。だけど、結婚って好きな人とするものだと思うし好きな人と以外やりたくないんだよね。
好きとか嫌いとか、よくわかんないからその価値観も否定しがちだけどさ。
「そういう地衣は初恋とかあるの?」
「ふぇ!? わ、私!?」
「うん。なんか気になる」
「な、ないわけじゃないよ」
あるんだ。
「どんな人?」
「え……。えっとね、幼稚園の頃に一緒にいたんだけど小学校は別のとこ行っちゃって……。でも、その時が初恋かな……。子供の時だし初恋と呼べるか怪しいけど」
「へぇ」
その子は元気にしてたらいいな。
「珠洲はいたの?」
「いやいや。珠洲にいるわけ」
「え、普通にいたよ?」
「「まじで!?」」
それ初耳なんだけど!?
いつ!? 何時何分何秒!? 地球が何回回ったころ!?
「小学校のことだけどね。美咲覚えてる? 一年生の時に転校していった子。あの子」
「あー……。記憶があいまいだ」
いたようなー……いなかったような。
すると、教室の扉が開かれる。
「名前なんて言う子?
「たしか畦道 標だったかな」
……ん?
なんか名前に違和感がある。
「今回、急遽転校してきた子を紹介します。入ってきなさい」
と、先生が転校生という人を連れてきた。
髪の長い少女が入ってくる。黒髪ロングの彼女は礼儀正しくぺこりと礼をした。そして、黒板に自分の名前を書いていく。
「はじめまして。私は畦道 標と申します。よろしくお願いします」
……珠洲の初恋は女の子だったようです。




