朱音と珠洲とクラスメイトと… ⑤
朱音ちゃん視点です。シリアスになります
……私は、最低なことをしようとしている。
だけれど、考えたら、これしかなかった。葉隠ちゃんにも同意は得た。けれど、乗り気ではない。私もやりたくない。けれど、確たる証拠がほしかった。
「みさ。駅前いこうよ。買いたいものあるんだ」
私はそう切り出した。
今からすることは……私も、みさもいい思いはしない。いや、みさにとっては地獄になるかもしれない。けれど、これしかない。
私は、振り返らない。ごめん。また私は……みさにひどいことをしようとしている。
みさたちと一緒に駅前に行くとやっほーと佑奈が待ち構えていた。
みさの顔色はわからない。いや、わかりたくもない。みさが見ているものと、私が見ているものは多分同じだった。
「みさ。ごめん。ちょっと……我慢してほしい」
「えっ……」
見ている者は近づいてくる。
そして、みさの胸を掴み上げた。
「どういうことだコラ……! てめぇ! 俺の親にチクりやがったな!」
そこにいたのは原田だった。
原田が怒ったような顔をして掴み上げる。その瞬間、未来が「撮った!」と叫んだ。女性を掴み上げている。これを然るべきところに出せば原田は……!
だけど、これじゃ足りない。きっと少年院には入らない。だから……。私もやることはやるんだ。
「……朱音。う、裏切った……の」
「……原田。やめなよ」
「ちぃ」
乱暴にみさを下ろす。
未来たちがみさに駆け寄っていった。みさはどんな目をして私を見ているのかはしらない。けれど、このまま原田を野放しにするよりは……今一度だけ苦しんでもらって楽になるほうがいい。
原田は一生変わらない。だからこそ……やるしかない。
「原田。そんなにキレないの」
「キレるだろうが! こんな親にチクるなんざ陰湿な真似しやがって……!」
陰湿? どの口が言うのだろうか。
「それに未来。いま撮った、とかいったな? 消せよ。お前もこいつみてえになりてえのか?」
みさを指さして未来を脅す。が、未来は首を横に振った。
それに怒ったのか掴みかかろうとしていく。私は原田の服を引っ張った。か弱い力で踏ん張る。が、男の馬力に敵うわけもなくずるずると引きずられていく。
「放せよ、霧崎。てめえ……」
「……やめなよ。これ以上やるとやばいよ」
どんどん見物人が集まっていく。そして、呼んでおいたクラスメイトが次々と現れていく。クラスメイトはみさの周りに集まった。
そして、葉隠ちゃんが私を指さす。
「霧崎さんが親にチクったことを美咲のせいにしたんだ。それで美咲がこんな目に遭ってるんだよ」
と葉隠ちゃんがそう言ってくれた。クラスメイトは私を睨む。
それを聞いた原田も私を睨んできた。そして、私の胸倉をつかんでくる。どういうことだ、ときつい言い方で聞いてくる原田。
私は、計画通りだと笑った。
いじめの原因を私にすれば問題はない。私が批難されれば原田は私を憎むようになってみさには向かないだろう。
贖罪、とまではいかないよ。苦しませたし。だけど、いじめられるのは私でいいよ。
原田は怒りに任せて拳を振り上げた。私は思わず目をつむる。
だけれど、一向に痛みはやってこなかった。
恐る恐る目を開けると、みさが拳を振り下ろしていた。
苛めの対象を美咲から霧崎に変えるために画策していました。
自分がいじめられれば原田は美咲どころではなくなると考えたんでしょうか。




