分体の事実
ガブリエル視点です。
天の書庫に私は引きこもっていた。
私たちの力を奪った人間。いつ奪われたのかを推定するために。私やウリエルはともかくミカエルまで捕まえられるとはすごいな。
ルシファーも相当な実力があったのにどうやって力を奪ったのかも気になるところ。
「魔法が発動したときが一番怪しいかな」
いや、たぶんその通りなのだろう。
いつしか下界の人間は魔法を使えるようになっていた。年代的にも天界崩壊の時期とぴたりと一致する。問題はどうやって奪ったのか、なぜ私たちは奪われた記憶がないのか……。なんだけど。
もしかして、実際に奪われてないから? もともと分体は存在していたのかもしれない。
「どうだったっけなぁ。少なくとも私は分身の術とか使えないしなー」
あの分体はどこから……。
「ガブリエル、いるかー?」
「ウリエル? どうしたの」
「いや、人間の聴取を始めたいと思ったんだけど立て込んでる?」
「うーん。今無理。調べることがあるんだよ」
「わかった」
あの分体はどこから出たのか、それを調べなくちゃ。
調べているうちにあの分体の予測は大方付いた。
あれはきっと無意識のうちに漏れ出していた天使の力だ。私たちは天界を離れたということは神の加護を無くし、天使としての力を失っていた。
消失した……ものだとおもっていたけれど実は結晶、分体としてパワーが残っていたんじゃないだろうか。奪った……のではなく拾った……というほうが正しいのかもしれない。
拾って、利用しようと考えたわけか……。私たちにも非はないわけじゃないなこれは。
ルシファーが結晶だった理由は堕天した際に力を奪われ結晶となったのを私が持ってた記憶がある。うん、ルシファーに関しては私が悪いような気もしなくはない。
「一概に人間が悪い、といえないなぁこれ。ウリエルに報告しよ」
聴取中のウリエルの元に行く。
ウリエルの隣にはミカエルが立っていてラファエルが記録を務めている。私はこんこんとノックして中に入った。
「どうしたのですかガブリエルさん」
「いやー、ちょっと人間にも情状酌量の余地はあると思って弁護に来た」
「弁護?」
「分体が奪われた理由、とかそんな理由を漁ってたんだよ」
私は椅子に座る。
ウリエルは首をかしげている。
「正直、人間は力を奪ったというより拾ったってほうが正しいんだよ。歴史から考えて」
「どういうこと?」
「ほら、私たち四人、天界離れていたときがあったでしょ? その時に神の加護がなくなって天使の力を失った……まではいいよね?」
ここまではみんな知っている。
天使の力を失ったと気付き、天使の力を集めていたときもあった。
「その時に、全部回収していたと思ってた力があったみたいでさ。ウリエルとミカエルは取り残しが多かったのか一つの分体ができるまで残っていたんだよ」
「取り残し……?」
「私とラファエルはあの時元に戻ったとなるとあのゾンビに力が少し宿っていただけだったんだと思う。奪われたわけじゃなかったんだよ」
「……早とちりなのか?」
「そうなるね。まぁ、分体をああやって利用していた、ということは否めないし罰せられるべきだろうけど、悪いのは私たちもだね」
これが私の辿り着いた結論だ。
……ルシファーのことだけは違うけど。
「ならルシファーはなぜ力が国に……?」
「……さぁ」
私はその質問に背筋が冷える。
待って。その質問だけはやめて。ルシファーは永遠に心の中にしまっておこうと思ってるのに。ただでさえ嘘が苦手なんだからすぐばれるっての……。
「ここまでわかる人間がさぁ? ってことはないでしょう」
「うぐっ……」
「吐きなさい。ルシファーはなぜ力を国に奪われていたのか」
私は、そのまま地に頭をつけた。
「私のせいですごめんなさい」
「「「「………」」」」
この場にいる全員が沈黙だった。
「えっとぉ、説明いたしますと……。ほら、ルシファーって堕天したじゃないですか? で、その時力を結晶に封じ込めたんですね。で、その管理を私がやれって言われて……。で、ポケットにしまってたんですけど、気づかぬうちに落としたと思って……その、はい」
完全に私が悪かったです。落としたんです。ごめんなさい。
「……ともかく、このことをアルテナ様に伝えなくては。ガブリエル。しかるべき罰は与えますからね」
「うぐっ……」
「これは罪が重いですねえ。今世紀最大のやらかしかもしれませんね」
ごめんなさい。本当にごめんなさい。こればかりは私も叱られるべきです。
奪ったわけじゃなかったんです。
もともと天使の力があるということに気づいた人がいてそのパワーをかき集めたんですね。それを良かれと思って人々に使ったんですが見つかってしまい捕らえられたんです。
で、あの場所ができたんですね。まぁ、拾ったものを使ってるとなるとネコババなのでどちらにせよ刑は厳しくなりますが。それも私利私欲なので……
ルシファーに関しては戦犯はガブリエル。これはまずいことしたぞ。




