官能小説
今回ちょっと息抜きです。天界での天使たちのひと時です。
朝、目が覚めると隣には彼女が寝ていた。
水を司っている彼女のモチーフカラー、水色の羽根が目に入る。彼女はなぜか裸だった。昨日、まさか間違いがあったのかもしれない。
そうウリエルは思い込む。
「お、起きてくれラファエル」
ウリエルは強くラファエルの体を揺さぶった。
ラファエルは唸り、ゆっくりと瞼をあける。寝起きで思考回路が回らないのかおはようとだけ返事を返す。この状況はなんて説明をすればいいのかわからない。
すると、ラファエルは突然微笑んだ。
「この状況から察するに、もうお楽しみは終わったのですね」
「な、なんでそんな冷静なんだよ」
「わかりませんか? なら、まだお楽しみの続きをしましょうか……?」
煽情的なラファエルの裸体を凝視。そして、ウリエルは――
「なんだかえっちぃんだが」
ミカエルがそうつぶやいた。
ガブリエルはそうですか? と頭を掻く。ミカエルがガブリエルの小説を読みたいといってきたのでガブリエル秘蔵のウリエルが男の子になってヒロインがラファエルの官能小説”天使ちゃんと呼ばないで”を普通の小説と偽って持ってきたのだった。
ガブリエルは性の知識はどの天使よりもあったりするのだ。ミカエルは逆に知らなさすぎるが。
「なぁ、これ普通の小説なのか? 普通の小説ってこんなえっちなのか?」
「ええ。どの小説もセックスなどやることはやってます」
ガブリエルのいたずらだった。もしミカエルに普通の小説と偽って官能小説を読ませたらどうなるかという単純ないたずら。悪意はない。ただ面白がっているだけだった。
ガブリエルの才能はある。官能小説からライトノベル、推理小説にホラー、エッセイなど多芸な文章を書けるのがガブリエル。
ある意味これもネタに等しいのかもしれない。
すると、偶然ラファエルが通りかかる。
ミカエルも気づいたのかやっほーと手を振るとラファエルが近寄ってきた。
「珍しいですね。ミカエルさんが読書ですか」
「ああ。たまにはと思ったんだが……ラファエル。本ってこんなえっちなのか?」
「……えっち?」
ガブリエルはじりじりと後ずさる。すると、背後から声が聞こえた。
「ガブリエル。何逃げようとしてるの?」
それはウリエルの声。ラファエルとウリエルがミカエルの持ってきた本を借りて音読していた。
ガブリエルにとっては死刑宣告だった。ラファエルとウリエルが顔を赤らめている。二人を題材にしている作品があることを知らなかった、それも官能小説という形で知ったとなると……。
「殺す!」
「殺しましょう」
温厚なラファエルも怒っていた。ウリエルはすでに剣を持っている。
「何この官能小説!」
「こ、こういうの普通じゃないのか?」
「普通だったらおかしいわよ! 騙されてんの!」
「なんだと?」
ガブリエルは冷や汗を流している。
三人の視線が冷たい。怒りそうだったウリエルはいいとして温厚そうなラファエルも顔は笑っているが笑っていない。ふふふ、と不気味に笑っていた。そして、騙されたとしったミカエルは剣を手にした。
「……その、身近な人を題材にするというのも小説ではよくあることでして」
「ならなぜ名前を買えたりなどはしないのですか?」
「……それはウリ×ラファのカップリングを見たかったあまり」
「有罪」
じりじりとにじり寄る三人。後ずさっていく一人。
「に、逃げます!」
「あ、待ちやがれ!」
「待ちなさい!」
「追いましょう」
ガブリエルは逃げ出した。
逃げた先には運が悪くサンダルフォンがいる。ラファエルはサンダルフォンに捕まえてと命じるとガブリエルはサンダルフォンに捕まえられたのだった。
縄でぐるぐる巻きにされている。そして、つるされていた。
「あ、あの。いくらなんでもこの仕打ちはひどいんじゃ……」
「さて、仕事しに行くかー」
「そうですね。泉の管理とかもしなくてはなりません」
「兵士たちさぼってねーだろうなー」
木につるされたままガブリエルは放置されたのだった。
「ちょ、私も仕事あるんですけど! だ、だれかー! 助けてくださーい! だれかー!」
一緒に『近寄ると呪われます』と隣にぶら下げられていて誰も近寄れなかった。
ガブリエルはそれでも必死に叫び続ける。すると、一人の男が通り過ぎた。
「なにをしているんだ」
「ベノム様! 助けてください! ウリエルたちにやられたんです!」
「……なにをしたんだ」
「なにってウリエルたちをもとにした官能小説を書いてただけですよ!」
「……お前が悪いだろ」
と、ベノムも去っていってしまった。
そして、降りたいと思っても降りられないので、そのうちガブリエルは、考えるのを、やめた。