公爵家の奥様
パーティが終わり、少年の家にいくことになった。
「改めまして私はマクラベル公爵家当主、ゼウス・マクラベルと申します」
治してほしい奥さんがいるというのはこの人。
ゼウス様は温厚そうな顔をしていた。公爵家ということは相当偉いのだろうが……。
「パーティでは我が子が失礼をしました。アルテナ様の使いの方……なのですか?」
「……まぁそんな感じです」
本当は生命の主神なんだけどそれを言わなくてもいいだろう。
この世界ではアルテナ様の使いってだけでも結構待遇はよさそうだしね……。
「それで、奥様の病状はどんな感じなのですか?」
「……一年前、原因不明の高熱がおきました。熱は下がらず、体もろくに動かせないでいます。食事はとりますがあまり食べないのでやせ細っていく一方で……。ついに先日医者の方から余命を告げられました」
聞いたことがない病状だ。
もしかしたらこのゲームならではの病気なのかもしれない。それにしても一年以上発熱が続く……。私たちだとかかりたくないな。
「神に縋りたい気持ちで私はっ……! 最愛の妻を亡くしたくはないのです。どうか……どうか妻を……! 治してください。妻のためならば私はあなたのためになんでもいたします……!」
奥さんへの愛が伝わってくる。
ゼウスさんは涙を流していた。馬車の中で泣いている。少年はゼウスさんに駆け寄って涙を吹いていた。大丈夫? 僕がついてるよと声をかけている。
「……わかりました。治しましょう」
屋敷について奥様の元に案内される。
メイドの方が扉を開けると、息苦しそうに呼吸をしている女性が横たわっていた。医者が隣に座っており、暗い表情で俯いている。
「ヘラ!? どうしたんだ! おい、医者! ヘラはどうしたんだ! だ、大丈夫なのか!?」
「……お伝えしにくい、のですが、ヘラ様は今日の夜を超えることも難しいかと思われます」
医者の胸倉をつかんで揺さぶっていたゼウス様が固まった。
胸倉を離し、地面に膝をつく。そして、ヘラという女性の手を握る。
「……私が治しましょう」
私はヘラさんへ近づく。
「なんですかあなたは!」
「……ミキ様」
私はヘラさんを鑑定した。
本当に死にそうだ。回復魔法で足りるかなと思っていると
《生命力が弱まっている相手を確認しました》
《生命力を修復しますか?》
とでたのでハイ、と答えると体が勝手に動き出す。
ヘラさんのおでこに触った。私の魔力が半分くらい減ったような気がする。が、息苦しそうにしていたヘラさんの呼吸が普通に戻った。
苦しそうだった顔も穏やかな表情に変わる。
「……治ったのですか?」
「たぶん……」
脈はある。死んではいないと思う。
「生命力を修復し、熱を下げました。完全に回復したとは思いますが多分体力などは寝たきりで落ちているため介護が必要だと思います」
「……助かったのですか?」
「はい。起こしましょうか?」
「……頼みます」
といわれたのでヘラさんをぺちぺちと優しくたたく。
すると、目を覚ました。
「……あ、あれ、私は死んでないのですか?」
「へ、ヘラ……!」
「あ、あれ? 熱が下がってます……。体もだるくありません……。私は治ったのですか?」
ヘラさんが困惑したように自分を眺めている。
ゼウスさんは抱きついていた。
「心配したんだぞ! よかった。本当によかった」
「ぜ、ゼウス様!? お、お医者様が見られております……。は、恥ずかしいです」
「恥ずかしさなど知るものか! 生きててよかった……! ミキ様! ありがとうございます! 私は本当に助かりました……!」
ゼウス様は大号泣だった。




