ソゥの冒険者登録前
『お母さんっ……!』
『お母さんどこっ……!』
こう馬車に乗ってると小さいときの思い出がよみがえるなぁ。小学生の時に誘拐犯に連れていかれる女の子役でこういうセリフあったっけ。
ストーリーは誘拐犯に連れていかれた女の子は親も引き取らず、誘拐犯に育てられた。周りには犯罪のスペシャリストがたくさんいて知識もある彼女が難事件を解く…というドラマがあってその子供の時の役を私がやったなぁ。
「昔はお母さんを喜ばせるためにやってたけど今は楽しいからやってるって感じだもんね」
昔はやめたかったが、今ではもっとやりたいと思えるようになったのは私が成長したからだろうか。
「ふふっ」
昔を思い出すと結構笑えてきた。
小学校とか友達はできなかったなぁ。みんな私を特別な子扱いしてたし。今でもそうだけど今はミキちゃんがいるし。
「お嬢さんご機嫌ですね」
「そうですか?」
「なんかいいことでもあったんですかい」
「……あったかな」
商人の人が馬を操りながらそう尋ねてきた。
いいこと……だと思う。自分自身の成長は。うん。きっといいことだよ。
「さて、王都が見えてきましたよ」
「おぉっ」
目の前には壁があり、門があった。
でかい。門がでかい……! 王都ってこんなデカいんですか! うわぁ。いいなぁ。
「はい、お嬢さんの通行料」
「へ? いいんですか?」
「そりゃユウリさんの頼みだしね。それに、商人として結構金持ってるから。通行料なんてはした金だよ」
「ありがとうございます!」
この世界に来て助けられてばかりな気がする。
ありがたい。助け合いって素晴らしい……!
商人の人に冒険者ギルド本部に下ろしてもらった。
そして、商人の人は去っていく。私は見送った後冒険者ギルドの中に入っていった。デカい。窓口も結構あって登録はこちらからという看板が見えた。
私は登録するために並ぶ。冒険者になりたい人が多いのか結構な列ができていた。
「冒険者って憧れの職業なのかな?」
と呟くと、重戦士風の男の人が私の横に立つ。
「そうだぜ。浪漫があるからな」
「……あなたは?」
「俺か? 俺はAランク冒険者のアヅチだ」
アヅチさん……。ランク制度があるんだ冒険者には。あと、浪漫?
「冒険者っつうのは実力がモノをいうからな。強くなればなるほどお金が手に入る。逆もまた然り」
「ああ、なるほど」
少なくとも弱いうちはお金がないということ。
だけど強くなれれば、自分は金持ちになれる。そういうロマンがあるんだ。強いと仕事も結構斡旋されると思うし稼げるからかもしれない。
たしかに浪漫はあるかな?
「あんた、強いだろ」
「……そうですかね?」
「わかるぜ。雰囲気っつうもんを感じる。不思議な気配もな」
不思議な気配?
「魔法とも異質だが……魔法に似たような力があるな?」
「……あ、精霊魔法のこと」
「……精霊?」
「あ、知らないか」
「精霊だと!?」
と、男は私の肩をがっと掴む。
痛い。
「精霊がどうかしたのですか……?」
「精霊が力を貸しているというのか! お前さんすごいな! 精霊は気まぐれで滅多に力を貸さないというのに!」
あー、そういうこと。
この世界では精霊から力を借りることはない。まぁ、あっちの世界も大体そんな感じだけど……。
「なるほどなぁ! 疑問が解けたぜ。精霊魔法使いか。なら冒険者になるより宮廷魔導士のほうがいいと思うが人それぞれだな」
「宮廷魔導士?」
「国専属の魔法使い集団だ。精霊魔法使いはこの国には一人しかいねえな」
ほう。精霊魔法つかいはあちらの世界よりはいるらしい。あちらの世界一人もいなかったし……。
「まぁ、お嬢さんがこっちでいいんなら止めねえぜ! あんた強くなれよ!」
と、励ましてもらった。