黒く変色した精霊樹
イベント一日目が終わろうとしている。
「いやー、村のみんなも助かっとるべー! ほら、たんと食え! おらの畑で育った作物だ」
夕飯をお世話になっていた。
NPC……名前はタゴサクっていうらしい。いや、それっぽい名前だよほんとにさ。タゴサクさんは野菜農家らしい。この沢庵も自分でつけたものだとか。
他にもぬか漬けがあったりしている。タゴサクさんは目の前でぬか床をかき回していた。
リアルかよ……。
「それにしてもあんた精霊王だったんだなー。驚いたっぺよー。んなら他の魔法も使えるんか? すげえなあ」
「あ、ありがとうございます」
この人は見た目はものすごくいい。イケメンというくらいにそれはもう整っている。けど訛っているギャップがすごくて残念って感じだ。
いや、これはこれでありかも?
「ごちそうさまでした。部屋に戻ってますね」
「おう! ゆっくりしていきや!」
二日目の朝を迎える。
すると、なんだか目の前に小さな小人がいた。
「起きたー!」
「起きちゃったー!」
二人の小さい子供が私の隣で寝ていた。
……なにこれ。誰?
「せーれーおーさま! おはよーごじゃいます」
「ほのー、おはよーございますだよ!」
「おひゃよーごじゃいます」
いや、なんで小さい子が?
鑑定してみると……精霊だった。炎の精霊と土の精霊。
赤っぽい髪をしたのが炎の精霊で、茶髪が土の精霊。まあ、イメージカラーだね。で、精霊たちが何の用だろうか?
「たすけてせーれーおーさま! 精霊樹がかれそうなの!!」
「……はい?」
私は急いで起き上がり、精霊樹のところまで行く。
たくさんのプレイヤーがいた。プレイヤーの周りに精霊がたくさんいる。
そして問題の精霊樹は、昨日とは打って変わっていた。葉っぱはすべて大地に落ち、鮮やかな黄緑色をしていた幹も黒く変色している。まるで何かに侵食されたような……。
というか、すでに枯れてるんじゃね?
「なにこれ!?」
私は人混みをかき分けて精霊樹に近づく。
MP回復効果はなくなっており、私が触った瞬間にビリっと電流が走ったかのような刺激があった。
「一体何が……!」
私じゃこれは触れない。他の人はどうなんだろう?
「ねえ、君。ちょっと触ってみてくれる?」
「いいですけど……」
と、男性プレイヤーはぺたぺたと木の幹を触っていた。
「痛くないの?」
「全然……」
じゃあ、精霊だけが触れない、ということなのだろうか。精霊だけを拒絶していると仮定。つまり私が触れることも介入もできないのか?
くっそう! これじゃ私なにもできないやんけ!!
「もっかい……」
バチィ!!
「いっだい!?」
やっぱり私は触れない!
「いてて……」
ちょっとひりひりする。もしかして精霊樹がピカ〇ュウで、どこかでサ〇シが「10万ボルト!!」とか命令していたりしない?
いや、これどうみても草タイプに分類されるよな……。草タイプで電気タイプっていないだろ……。
「もうここは他の人に任せよう……。私じゃ無理だ」
その時だった。
「あの木に邪精霊がとりついちゃったのーーーー!」
「みんな追い払ってーーーー!」
と、周りにいる精霊がわめきだした。