騎士グレン
屋敷に戻ると、メイドの人たちが私たちを部屋に案内してくれた。
お客様が宿泊する用のお部屋というが、デカい。私の家のリビングよりでかくないか? と、そう思うような部屋。貴族ってすげー……。
「よし、ここまできたからちょっとログアウトするわ」
「おーけい」
チリンがログアウトする。
現実での時間は現在10時。朝のね? 現在ゴールデンウィーク初日だからね?
それはさておき、屋敷にいても特にすることは何もなくて。
クエストをこなしたいけど冒険者ギルドでのクエストしかなさそうだし、この街にはそれほど滞在しないし。この街の本当に近くならいいんだけど遠かったらあまりやれないわけで。
「とりあえず探検でもするかなぁ」
屋敷の探検でもしようか。
そう思い、部屋を出て中庭のほうに向かう。と、グレンが剣を振っている。上半身裸になり、一心不乱に素振りを繰り返していた。
何かをつぶやきながら。
「お嬢を守れず死にそうになるとはまだまだ鍛錬が足りない。もっと力を付けなければお嬢を守れぬ……!」
と、死にそうになっていたことを後悔しているらしい。
……いい人そうだなぁ。私はグレンのほうに近づいていった。
「グレンさん。素振り?」
「お、おお。ミキ様か。ええ。鍛錬ですよ。日々の」
「そうなんだ」
「ミキ様。私を治していただきありがとうございました」
と、頭を深く下げた。
私はそれほど特別なことをしたつもりはない。
「いいよ。あげても。私はそんな大層なことしてないって」
「いえ。回復魔法がなければ私はお嬢を一人残し死んでしまうところだったのです。まだまだお嬢を守っていきたい。私の願いをかなえてくれたのですよ」
……立派な騎士だなぁ。
騎士の鑑のような人だ。どこかしらランスロットに似ているような気もしなくはない。
「よければ私個人でもお礼をしたいのですがなにがよろしいでしょうか?」
特にはない。
見返りを求めてやったわけじゃないしな。あそこで見逃してたら人としてどうかと思うし……。それに、死んだとしても最悪蘇生はできるしね……。
「ならちょっと剣の練習したいから手伝ってくれない?」
「かしこまりました。私でよろしければ師事させていただきます」
「うん。よろしく」
私は転換し、木剣を握る。
「動きはよろしいのですが相手に当てる際に躊躇しているよう見えますね」
と、的確に弱い点を指摘してくれた。
どうも人に当てる、というのに拒否感があるらしい。現代に生きる人の感覚なのかもしれない。刃物って人を殺す凶器だから人に当てたら死ぬんじゃないかという恐怖もなくはないから。
だがしかし、これじゃ成長しないのも明らか。がんばって当てよう。
「人間相手じゃ嫌ですかね? そういう人もいるのですよ。魔物相手するのなら遠慮なくやれるけれど人間相手となると戸惑う人。まあ戸惑う人は騎士になれませんが」
「……そうだよなぁ。敵は人間にもいるもんなぁ」
「他国との戦争などになると嫌でも人を手にかけねばなりませんから」
敵はモンスターだけじゃなく味方にもいるということ。
現代だってそうだ。むしろ、現代は人間のほうが敵だった気がする。
「戦争とかってやっぱなくならないんですねぇ」
「まぁ、人間がいる限りはなくなりませんよ。人間って、欲深いですし」
そうだよな。
その通り。欲深いから人間だと思う。
「……なんか、嫌ですねそういうのって」
「嫌でもやらなくてはいけないことはごまんとありますから。そこは我慢です。あなたも戸惑うことを我慢すればそれなりによい剣筋をしてますよ」
「……我慢かぁ」
ためらうことを我慢……。
やってみようか。躊躇わない、ということを。