災厄 ①
体力がゼロになり、その場に倒れる。
ベノムは、力を振り絞って起き上がろうとしていた。
「ふははは……。舐めていた。よもやこのような力が人間たちにあったとは……」
不敵に笑う。
残ったプレイヤーは気味が悪そうに眺めている。が、ばたん、と倒れこんだ。
「これで、終わり?」
みんながほっと一息ついた。
こんな呆気なく終わるわけがない。ラスボス戦は終わっていない。それを言おうとするとアナウンスが響き渡る。
《ワールドクエスト:愛すべき世界をクリアしました》
というアナウンスが聞こえる。
勝った、のか? 場所が元に戻って天界。みんな喜んでいた。帰って祝勝会をやろうという人だとか疲れたからいったんログアウトするっていう人もいる。
だが、違和感はないのか?
そして、大半がログアウトしたり、帰ったあと。それは起きた。
「く、ククク……。まだ終わっておらぬ。私は死んでおらぬぞ!」
《ワールドクエスト:災厄 を開始します》
と、またステージが切り替わる。
ここに残っていたのは、ロト、私、トロフィ、ミソギ、チリン、ニル、マシュマロ、ストレングスと私が連れているNPCの仲間。
初見殺しじゃんか……!
「初代ドンキーコングでもあったような死んだふりだったね。こんな呆気なく終わるはずないもんね」
チリンがそうつぶやいた。
そう。ラスボス戦がこんな早く終わるわけがない、と、一つ私は確認したいことがある。
「みんな、レベルアップはした?」
「……してないな」
「でしょ?」
本当に倒したのなら莫大な経験値が入ってもおかしくはない。
ただ、クエストである”愛すべき世界”は本当に終了した。ただそのクエストはフェイクだったような気もする。フェイクを用意するとか性格悪いなぁ。
「ここまで追いつめられたのは初めてだ! ならば私も本気を出そう!」
ベノムは、力を解放していく。
肉体が膨れ上がり、どんどん変化していく。四足歩行になり、翼が生え、ドラゴンのような鱗が生えていた。いや、まんま…。
「最終形態だ。決着をつける」
「最終形態がドラゴンか!」
それはまごうことなくドラゴンだった。
ドラゴンの咆哮が荒野に響き渡る。
『私は本気を出そう。だがしかし、消耗したお前たちと戦って勝つというのも不公平だ。だからまずは回復してやろう』
と、HPとMPが全回復する。
回復してくれるボスとは優しい。その分難易度はあるんだろうけど。
『最終ラウンドとでもいこうではないか! 久しく本気を出せるこの高揚感! 感謝するぞミキよ! 人間よ!』
「……じゃあ、始めようか」
これが、本当にラストだ。
こちら側の人数も人数だ。けれど、負けることはしたくない。ここまできて死んで終わるだなんて、そんなことはしたくない。
もう勝つしかないでしょう。
「私は勝つよ。勝って守る」
『私は勝とう。そして世界を壊す』
私とベノムの思惑がぶつかっていく。
「『いざっ!!』」
戦いが幕を開けた。
終わるわけないじゃん?フェイクですよあんなん。まだ戦いますよ。