神が望むユートピア ①
アルテナ様が仲間に加わった……のはいいんだけれども。
オルテナ様を探せというのが本当にむずかしいな。ヒントもあるわけじゃないし……。そもそも顔がわからない、どこにいるかわからないで手当たり次第探すしかない。
アルテナ様曰く「あの子は活発ですから一か所に留まることを知らないんです。留まるとしたらなにか自分に対する儀式だけですね」と笑っていた。
ただ、なんか怒っているようにも感じられる。というか、さっきから殺気がすごい! なにかしたの!? オルテナ様! アルテナ様怒ってますよ!?
「オルテナ様…って、あのオルテナ様ですか?」
「たぶんそのオルテナですね」
「この世界でオルテナ様って創造神的な立場なの?」
「そう、ですね。役割的には」
「役割的には?」
気になる言い方だな。
まるで役割は創造神だけれどほかになにかあるみたいな言い方だ。っていうかあるんだろう。
「役割的には、創造神。ですが、やってること自体は破壊神といっても過言ではないでしょう」
破壊神……?
「ミキ様たちも見たでしょう。妙に統率が取れた街人を。不気味なくらいに同じ容姿の人たちを。あれをみて怖かったでしょう?」
「え、ええ。まぁ」
「ですがそこに、人間の心というものが感じられましたか?」
アルテナ様が問う問いかけ。はい、なんて答えらえたものではなかった。というか、感じられると答えられるものではない。
「私の世界は人間が人間らしく過ごせるような世界です。善人もいれば悪人もいる。そんな世界を創りました。けれども、オルテナは違います。オルテナは協調というものが大好きでした。なので創った人間みなに協調を求め続けた結果、この世界となりました。みんなと違えば悪、みんなと同じなのが正しいという固定観念を植え付けられた人々はもはや、人間ではありません。人形とでもいうほうが正しいでしょうかね」
わかる気がする。
自然さがまるでなく不自然。この世界で暮らそうものなら世を捨てることを選ぶ。理想とは掛け離れた世界。まさにディストピアだなぁ……。
みんなと違うから、みんな一緒なのが素晴らしいというのはどうも気に食わないな。
「……そのことをおかしい、と思わない人が怖いな。私は今すぐにでも帰りたい気持ちだ」
「私もだよ。この世界にいると気が狂いそう」
「そこにいる少女は、きっと洗脳が解けたようなものでしょう。そういう異端児はすぐに抹殺されるのがこの世界です。人間の心だとか命はどれよりも軽い世界ですね」
「…………」
グレイスは黙ってしまった。
「残酷な真実を言いますが、その少女の親は『うちの娘がやらかしてくれた』なんて思っているでしょう。この世界は娘より自分が大切な世界。思いやりなんてものはありません」
思いやりがない世界……。命が軽い世界……。
だとすると、怖い。それが当たり前の世界だとしたのなら……怖い。自分のためを思って泣いてくれる人もいなくて、自分自身だけで生きてくことしかできない……。
……こんな世界やだな。
「私はそろそろお灸をすえなくてはなりません。ミキ様には申し訳ないのですが協力を頂けないでしょうか」
《クエスト:神が望むユートピア を受けますか?》
もちろん私は手を貸すに決まっている。
はいを選択した。
この世界はみんな違ってみんないいが通用しない世界です。
みんなと同じでなければ処罰対象。人々は処罰されている人をみて「俺じゃなくてよかった」としか思わず誰も手を貸してくれない世界。
みんなと同じことがすばらしく、人としてではなく神のために過ごすのが理想の世界。神が望むのなら我々はそれに従い続けますという感じですかね。