鬼の目にも涙 ⑥
鬼の体力をあと少し削れば勝ち確定。
私は、魔法を放つ。あと少し、あと少しなんだよ……! そうすれば、勝てる。普通の人ならばまだ半分も削れていないと嘆くところだろうけれど。あのスキルがあるから私は半分だけでいい。あと少し。あと少し削れば、終わる。
「あと一発ぶち当てれば、半分削れる!」
私がそう言うと、ゴエモンがハンマーを持ちダッシュで近づいていく。が、鬼はゴエモンめがけてハンマーを振り下ろそうとしている。
これは当たる。まずいな。
すると、ゴエモンが加速した。
「コマチ! わかってるじゃねえか!」
「へへっ。伊達に幼馴染やってないよっ」
どうやらコマチが何かをしたらしい。
いや、わかった。あれだ。滑車みたいな要領だ。鬼の足を主軸とし、コマチがゴエモンを引っ張っている。コマチが糸を引くと同時に加速している仕組だ。
考えるな。
「くたばりやがれ!」
ゴエモンの持つハンマーは鬼のすねに当たる。
そして、体力が半分切ったのだった。
「ガァァァl!」
と、鬼の様子が変わっていく。
膨れ上がっていた鬼の色が赤から黄色へと変色していく。そして、角が生え、金棒を捨てていた。地面に手をついている。その姿はまるで魔獣のようだった。
だがしかし、体力はあと半分。残念だったね。
「ゴエモン、コマチ! 逃げて!」
「わかったぜ!」
「うう!」
ゴエモンとコマチが走り出す。
それを追いかけるかのように走り出す鬼。だが、私は行かせるわけがなかった。私は鬼の目の前に立ちふさがる。
鬼は、私を潰してから行こうと思ったのか、その巨大な腕を振り上げた。
そして、私にぶち当たる。
体力ごっそり減る! やばいやばい!
いや、いいんだけど! でも死にに行くというのは抵抗がまだある。だがしかし、死ぬしかない。自殺志願者っていうわけじゃないんだけどなぁ……。
「ガァァァl!」
一撃で死ななかったことに驚いているのか、またこちらに向かって走り出してくる。
私は、抵抗せず地面に寝そべり、そして、鬼の攻撃をもろに食らう。体力が0という数値を示した。
《不俱戴天を使用しますか?》
迷いもなく使用すると答える。
すると、暗転していた視界が開けたのだった。私は立ち上がり、鬼の様子をうかがう。すると、鬼は突如悶え始める。
「ガァァァーーーーッ!!」と断末魔に近いような叫びをあげ、ポリゴンと化して消えていった。
私はその場に座り込む。
終わった。鬼退治が終わった……。
「終わったか? ミキ」
「鬼いなくなってる! やったんだね!」
ゴエモンとコマチが姿を現した。
「終わったよ。疲れた」
「終わったか……。長かった。悪かったな。付き合わせて。立てるか?」
と、ゴエモンが手を差し伸べてくる。
その手を取り、私は立ち上がる。
《クエスト:鬼の目にも涙をクリアしました》
そのアナウンスが聞こえた。
「……まぁ、付き合わせた詫びはしてやる。どれ、ちょっときな」
そういわれ、手を引いていくゴエモン。
何がもらえるんだろう……。
鬼との戦いボス戦並み