鬼の目にも涙 ⑤
疲れてきている鬼は、しこを踏んだ。
どしんと地面が揺れる。そして、なにかを食べていた。何を食べているのかは鑑定してみるとわかってしまった。
「疲労は回復させるのかよ……!」
疲労回復効果のある薬草という名前。
鬼専用のアイテムらしい。要するに疲れてきたら回復しますよってことか。多分あの薬草を食べさせないようにしなくちゃいけないんだろうけど、もう時すでに遅し。
鬼は薬草を口に含んでいた。
そして、回復したのかまたどしんと走って向かってくるのだった。
鬼の足下にでかい穴を作る。
大きく抉れた地面に足を取られてスっ転ぶ。
「チャンスだぜ!」
と、ゴエモンがハンマーを振り下ろした。
だがしかし、ゴエモンがハンマーを振り下ろしている途中に鬼は起き上がる。金棒の柄でハンマーを穿つ。空中に放り出されたゴエモンがハンマーを手放してしまった。
そして、また、地面をえぐる。
ちゃぶ台返しでまた地面が私たちの上に降り注ぐ――
「ゴエモン!」
空中に放り出されたれたゴエモンがもちろん回避できるはずもなかった。
私は飛行スキルを使うが、間に合いそうもない……! どうすればいい? どうすればいいんだ? ゴエモンを助けないと……!
その時だった。
「”ワイヤーフック”」
私の横を、釣り糸みたいな糸が掠めていった。
その糸はゴエモンをくるくる巻くと、ゴエモンの体がこちらに引き寄せられる。振り返るとコマチの服の袖から伸びていた。
「い、糸の扱いは得意なのっ……! ゴエモン~~~~!!」
「ナイスコマチ!」
ナイスプレイ! 引き寄せられたから私が全速力で引っ張っていくのみ! 風魔法を使い追い風を作る。
ゴエモンを抱えて、当たらない位置に避難をすることができた。
「あっぶね……。助かった。死ぬかと思ったぜ」
と、心臓を押さえてゴエモンがそう言うのだった。
……もうしょうがない。あのスキルを使おう。そうすればあと半分削るだけでいい。このことを二人に説明しておかないとね。
「コマチ。ゴエモン。私には秘策があるから、相手の体力を半分削れたと思ったら私死ぬね」
そういい、私は魔法を放つ。
半分まであと少し。そうすれば勝てる。あの薬草は体力は回復しない。それが何よりの救い。プレイヤーならポーションを使われて終わるけれど、鬼にはその心配はなさそうだ。
だから、心理戦はない。
相手に回復させないようにする立ち回りも必要ない。そう考えるとまだ楽だ。モンスター相手だと回復する心配がなくていいな……。
依然としてめんどくさいのは変わりないけれど。
「あともう少し! ここが正念場!」
「な、なにをするかわからねえが、わかった。半分削れたらミキを鬼に殺させればいいんだな? それで勝てるんだな?」
「うう、見殺しにするのは良心が痛む……。けど、勝つためにはやるしかないんだ……」
コマチは優しいな。
だけど、やるしかない。だから、やる。正直痛くないとわかっていてもあの棍棒当たったら痛そうで嫌なんだけど……。