黄泉比良坂 ①
この坂の名前。
多分、黄泉比良坂だ。イザナミがイザナギを追い返した時に……。とかそんな感じだった気がするが、上ってはならないということは鬼が出るからだ。
「……Lv.999!?」
まずい。
鑑定してみるとたしかにそういうレベルだった。困難だということはこれで、体力も以前戦った巨人兵の数百倍はあるといったところだろう。
……倒せない。無理ゲーだろこれ。
「素直に従えばよかったなこりゃ」
「いいから逃げるよ! 死ぬ!」
私たちは一心不乱に走り出した。
けれども私たちは上ってきたから帰りは下り坂だから……と油断していた。目の前には上り坂があった。私たちは登ってきたはずなのに。下り坂のはずなのに。上り坂に変貌を遂げている。地形変化しているじゃないか!
しかも、距離が見えない……。
……。
「飛行!」
飛行スキルあるもんね!
「私が鬼を誘導しておくからみんな逃げて!」
「お、おう! だけど……」
「私は粘ってみる」
とりあえず一撃。精霊魔法を当てる。
体力がやはり減らない。うん。魔法防御もめっちゃくちゃあるらしいです。これ無理ゲーすぎるだろ……。逃げるゲームかやっぱり。
ただ、死んだらどうなるのか。ペナルティはあるだろう。デスペナルティより多分重くなる。だって死んで戻ったほうがはるかに楽だから……。もしかしたら最初からやり直しということになるのかもしれない。もしくは、黄泉返りのスキル剥奪。
辛すぎるだろ……。
みんなはまだあまり上っていない。というか、傾斜がどんどん大きくなっているような気がした。
「きつい……!」
……。
「”約束の地”!」
私は坂の傾斜を緩くしてやる。
さすがは理想郷の力! 通じるんだ。カナアンの力も相当やばいねこれ。
ただ、常世の力が大きいのかすぐに戻ってしまう。なるほど。一筋縄じゃ行かないわけだ。
「もはやロッククライミングだろこれ……」
「ごつごつしててよかったけど……ひっ。怖い!」
「はぁ……長い……」
「黄泉比良坂ね! ということは多分……」
ミソギが何かを探している。
上る手を止め、きょろきょろと辺りを見回していた。黄泉比良坂になにかあるんだろうか。そこまで詳しくもないけれどここで私のほうに誘導しておかなくちゃみんな死ぬ……。
「お、鬼さんこちら!」
私は、一番下までかけていくことにした。
上り坂を下ることにより、本来の出口よりは遠くなる。鬼はこちらに向いてくるのだった。知力は低いのだろう。挑発に乗り、どんどんオオトウロウから引き離されていく。
ばーっか!
金棒を持った鬼はこちらにどしんどしんとかけてくる。
飛行スキルで坂を下っていると、行き止まりになっていた。一番底についたんだろう。目の前には鬼が迫り、棍棒を振りかざさんとしている。
距離は取れた。ならばひたすらこちらは躱すのみ! 躱すのは大得意なんだよ!
「こい! 受け止めてやる!」
引かぬ、媚びぬ、省みぬゥゥゥ!