おばあちゃんとお孫さん
そういえば気づきましたか?
常世に向かう道中の話数が「444(ししし)」ということを……
「それは、ある山小屋にいたおばあさんとそのお孫さんのお話です。
お孫さんは生まれつき体が弱く、山の清らかな空気を吸い日々生きていました。
『孫よ、食べたいものはあるかい?』
そういうと孫は『ハンバーグが食べたい』と言いました。
おばあちゃんはにっこり笑い『わかったよ』と微笑ましい笑顔を向けて快く了承してくれます。おばあちゃんの作る料理は最高だ、おばあちゃんの料理は誰にも負けていない。
お孫さんはおばあちゃんを誇り高く思っていました。
すると、客人が訪ねてきます。
『婆さん邪魔するよい』
とふくよかな体をした男性が中に入ってきました。ふくよかな男の人は椅子に腰かけ、婆さんの茶を待っています。孫も婆さんもこの男の人とは知らぬ仲ではありません。
山のふもとの町に住む男性でした。おばあちゃんに衣類を届けに来る人です。
『そういや、知ってるかい? ここ最近、妙な死体ばかりが町に転がってるんだ』
『へえ、そうなの。怖いねえ、物騒だねえ』
『ああ。あの町には殺人鬼がいる』
怖がるそぶりを見せないばあちゃん。ばあちゃんは昔からこうでした。肝が据わっているのか、それとも自分は襲われないという絶対的な自信があるのです。
孫はそんなばあちゃんを少し疑ってしまいました。
『なんであんな冷静なんだ? 殺人鬼と聞いたら取り乱すはず……』
だけれどもおばあちゃんに限ってそれはない、おばあちゃんは強いから殺人鬼なんか返り討ちにできるぞっということにしました。
『婆さん。町の人はあんたを殺人鬼だと思っている。どうなんだ?』
『……はぁ。疑われるなんて心外だねぇ。わたしゃ違うよ。人を殺せるほどの肝はない』
『本当か?』
『嘘だと思うのなら一日見張ってるがよいさ。わたしゃなにもせんからのぅ』
そういうとふくよかな男の人は納得しそれ以上の追及はしません。
『ほれ、お茶だよ。まったく。茶もただじゃないんだから無駄話をしに来ないでおくれ』
『無駄話はしにこないさ。ほら、欲しがっていた服。孫に着せるんだろう?』
『ありがとさん。いつもすまないねぇ』
『美味いお茶を飲ませてもらってるんだからいいのよ。じゃ、また来るな』
といってふくよかな男の人は出ていきます。
私は椅子に座りながらずっとおばあちゃんを観察することにしました。おばあちゃんは床下から肉を取り出します。毎朝狩人の人から届けられる新鮮な鹿肉でした。鹿肉をミンチにしてこねています。
『どこも違和感ないなぁ』
おばあちゃんが殺人鬼なわけはない。
でも、おばあちゃんはどことなく怪しい。冷静なのも、いたって不自然だ。不自然だと感じると今までの生活を疑うことになってしまう。
そこで孫は考えるのをやめました。
『おばあちゃん、手伝うよ』
『いいのかい? ならたまねぎを切っておくれ』
孫は包丁を手にしました。
そしてリズムよく切っていきます。とんとんとんと、いつものように。
『おばあちゃん、赤ワイン用意してくれたんだ。でも投入するのはフライパンにだよ』
孫の持つ包丁に赤ワインがついてしまいました――」
……怖い。
私たちはミソギの怪談話を聞きながら常世に向かっていた。
正直、さっきの話はめちゃ怖かった……。なに? 叙述トリック? いや、そんなのないと思うけど……。聞かなきゃよかった……。ってめちゃくちゃ後悔している。
たしかに幽霊じゃなかった。幽霊じゃないんだけど……。
「今の話のどこが怖いんだ?」
「わからない……」
オオトウロウと〆サバはわかってないらしい。
逆にまぐろはわかったのか顔を青ざめさせている。
「おばあちゃんが殺人鬼で人肉を食べさせられていたっていうことか?」
「え、なにそれこわ……」
「違うよ。おばあちゃんは殺人鬼なんかじゃない」
そう。おばあちゃんは殺人鬼なんかじゃないんだ。
おばあちゃんは。
「まず登場人物を纏めてみて」
「え? 孫に、おばあちゃんに、ふくよかな男に、殺人鬼だろ?」
「一人多いよ」
「は?」
まぐろがそう指摘する。
〆サバとオオトウロウは多くなんかない、と言っているような顔をしている。
「ククク……。殺人鬼はただの話の中の話の登場人物よ。含めるのはまちがっているわ」
「それもそうか……。だけどどこも怖くねーだろ」
「そうですよねぇ……」
「わからない? おばあちゃん、料理得意そうだったよね?」
「まあ、そうだな」
「おばあちゃんが赤ワイン投入するタイミングを間違えると思う?」
「…………」
二人とも気づいたらしい。
「ま、まさか……殺人鬼はお孫さん……」
「正解……。おばあちゃんが冷静だったのは孫が殺人を犯しているのを知っていて自分を殺さないという自信があったから……なのよ。まだまだアマチュア作品だけれどネ……。叙述トリックはまだ勉強中よ……」
……正直怖い。
ひええ、常世ますます行きたくないよぅ……。
「どうこう話しているうちに、ついちゃったね……」
「……正直、今一番見つかってほしくなかった」
「同じくです……」
「胸が高鳴るわ……! クククククッ」
目の前の岩にはお札が貼っている。
いかにもあるよという感じを醸し出し、岩の奥へ続く道は暗く、声が響く。怖い。正直、もうこの時点で帰りたい……。ログアウトしていい? あ、リスポーンのほうがいい。
か、帰りたい……。
今回の大半の文字数はミソギの怖い話