中略、嘘で出来ている私へ
訓練所で爆音が響き渡る。
トロフィ、ガガトツ、ロトの三人が私に攻撃を繰り出していた。これは訓練だ。私が相手するために私に攻撃を当てられるようにならないといけない。そういう訓練。
私も本気で避けてる。本気で避けてる私に本気で当てないといけない。
「”獣王の咆哮”!」
と、ガガトツが吠える。
瞬間、足が固まったように動かない。恐慌状態か。そんなものは状態異常回復を自分にかければいい。恐慌状態から抜け出しロトの攻撃をかわす。
「生命の主神を選んだから状態異常対策も出来てるの! あ、MP切れを待つ方法も推奨しないから」
「わかってる! きついな……!」
「こっちのMPがなくなりそうだぜ!」
だろうね。
さっきから結構スキルを使っている気がする。MPの消費も半端ないだろう。本気で避けているから一発もいまだに当たっていない。
私に攻撃を当てるコツとかはあるんだよ。一番躱しにくいものもあるんだ。光以外に。
「跳弾っていうのが苦手なんだよ私。見えたら避けれるけどそっち躱しても前からくるし挟み撃ちに弱いよ私は」
「なら……!」
「ただ、私だって攻撃はするから、安全に近づけたらいいんだけどね。今は攻撃なしでやってるから簡単だと思うけどさ」
「簡単じゃないんだが。イージーモードから難易度20くらいありそうだけど?」
いやいや。自分の体力は減らないんだから簡単じゃないの?
「ぶっちゃけ四方八方からの魔法攻撃はよけづらい。ただ、そこまで人数は用意できないし同時に放つ必要があるっていうのが難しい点かな」
「あまり現実的ではないな。ミキを相手どる以上相応のリスクはいるが……。なにか撃破方法はないのか」
「私自身どんな感じか判らないしあまり参考にはならないかも」
なので方法がわかったら教えてほしい。
私も一応対処方法は考えておくけど……。
「あ、そろそろログアウトしなくちゃ」
「なにかあるのか?」
「夕飯。お母さん居ないし私作るんだよ」
「そうか。わかった」
ログアウトしてソファに座る。
録画した真野ちゃんが出演しているドラマ”相反性の二人”というものをかけながら今日の晩御飯を作る。
嘘が嫌いな主人公が二つに分離し、片方は正直者、片方は嘘つき。ものすごく深いドラマだったりする。名言もたくさん出ているし真野ちゃんの演技が可愛すぎてやばい作品。
『ねぇ、どうして私は嘘が嫌いなの?』
『嘘は人を傷つける! 良かれと思っても人は傷つく嘘しかつかない!』
『言い分はわかるけどさぁ……。君ってこの世界にいちゃいけないよねやっぱり』
『なんで!? 私に消えろっていうこと!? ふざけるな! 私は生きる! 偽物のほうが消えたほうがいいんじゃないか? もともとこの世界にいなかったんだからさ』
真野ちゃんが演じる本物がそういうが、偽物は鼻で笑った。
『君がこの世界に残ってもいつか嫌気が挿して自殺するともうけどな』
『なんで? 私は自殺なんて……』
『するよ。君は、この世界に順応できない』
と断言する。
『この世界が何で作られているか知ったら、君は……死ぬよ』
『……うるさい』
『今でもうすうすと気が付いてるくせに。自分に嘘ついているじゃん。やっぱ嘘つきだね君も』
『うるさいな! わかってるんだよ……!』
『わかってるって何を? この世界、この世の中を何をわかってるの? 私わからないから説明してほしいな』
嘘つきは笑って追い詰めていく。
正直者は泣いてしまった。泣いてその場に蹲る。
『残酷な真実だよね! この世は嘘と欺瞞で出来ていることはさぁ!』
『うるさい!』
『世の中嘘だらけなのに、それでも嘘が嫌いな君は順応できるっていうの? 嘘つきの私のほうがはるかに順応できるさ。違う?』
『違う!』
『そう頭ごなしに否定するなよ。冷静な思考力が大切なんだぜ?』
偽物は嘲笑う。
『人間は嘘をつく生き物で嘘を必要としている生き物だよ。胡散臭い人間関係だったりくそみたいな上下関係だったり。嘘をつかなくちゃやりきれないのに。この世の中には正直者がバカを見るっていう言葉もあったっけな……。まさしくその通りだよ。この世で正直者は生き残れない』
『嘘つきは、姑息に戦って勝利をもぎ取るんだ……』
……姑息に?
……そうだ。私たちも姑息にやればいいんだ。今まで正々堂々戦うつもりでいたけど……。別に正々堂々じゃないんだ。
ありがとう真野ちゃん。いいヒントになったよ。
深いしいいドラマだ。愛してる真野ちゃん!
……あ、ご飯支度全く進んでない。