バグから始まるデスマーチ
それは、一つのイベントを終えたすぐ後に起こった。
「はぁ!? バグが見つかった!?」
会社内に怒声が響き渡る。課長が怒鳴っていた。
バグを発見したということだ。今までバグがでないようにしていたはずのゲームにバグが。これは運営の失態だった。見落とし……というべきなんだろう。
運営の沽券にかかわるものだった。
「ったく、なんで確認しねえんだよ! うちのゲームは意地でもバグをプレイヤーにみせねえっていう根性でやってたろ! で、どんなバグだ!」
「えっと、マーリン透明化バグで……」
「よりによって英雄か!」
課長が怒鳴る。
提出されたバグ報告書を眺めて頭を掻いた。英雄となるとプレイヤーが仲間にしているわけで。そのプレイヤーからの不満が大きく出るだろう。
マーリンを下方修正することになる。だがしかしプレイヤーの気持ちも考えていたい。
ただ、これを見放しておくというか、黙認していると他のプレイヤーからも文句が出そうだ。
「バグ修正にはどれくらいだ」
「それが……このバグがマーリンの根本的なプログラムから正さなくてはならないので一から作ることとなります。それでマーリンは十日ほどかかるかと……」
「そうか……」
と、バグ報告書を隅っこに置いた。
「課長! バグです! 今回新たにプログラムしたものがバグを起こしております!」
「なんだと!? 直ちに直せ!」
「そ、それが……結構かかるかと。次のエリアからすべて正さなくてはならなくて理想郷からすべて配置するとなると最低でも一か月は……」
ということを言うのだった。一か月。その間プレイヤーはゲームができなくなる。普段のメンテナンスやアプデ等は遅くても二日で終わらせていたのに対し一か月となると……。
「……プログラミング班にはわるいがしばらく死ぬ気でやるしかない……。一か月もプレイヤーを待たせてられるか! 今からでも直せ!」
「かしこまりました!」
課長はため息をついた。
まさかのアプデが終わると見せかけておいてのバグ報告。これは想像以上に課長を苦しめるもので。一から作り直しとなると時間がかかるのは確かだった。
細かなところまでの設計が仇となる。だがしかし時間がないからといって質を落とすわけにもいかず。プログラムをなるべく早くやらせるしかない。
「今日は3月21日……。二週間で終わればいいほうか」
プログラミング班に期待するばかりである。
ただもちろん課長も残る。これは自分の責任なので課長もできることはするつもりだった。コンビニによって栄養ドリンクをありったけ購入し、ケーキも買っていく。
さぁ、課長たちの残業タイムはこれからだ。
残念ながらあのイベントの時のマーリンの透明化は魔法なんかじゃなくバグでした。運営としては致命的ですがミキ気づいてませんでしたね。
まぁ、仲間にしたプレイヤー本人も透明化はバグだと知りませんでしたが。