ツンデレ魔王様
水の中は汚かったが見渡せないほどではなかった。
オイルが浮かんでいるというだけらしい。水中はそれほど……汚いといえば汚いが。水質は悪いだろうし、体にもよくないと思う。けどゲームだ。何の問題もない。それに、光の膜で覆っているし大丈夫だと思う。
「結構深いな」
ふかーく潜っているが一向に底は見えない。ここが怪しいポイントのはずだけど……。この川、底はどこまであるのだろう。そろそろ酸素ゲージがなくなりそうだ。ここはなにかしら使うのだろうか。例えば……潜水艦とか酸素ボンベとか必要なのかな。
ぐうう! 酸素がなくなりかけている……!
こうなったら浮上するしかないか。仕方ない。
私は上へ向けて泳ぐ。
すんなり上についたのだった。
「ふぅ……」
「どうだった? 何か見つかったか?」
「いや、底が深くて酸素ゲージがなくなるよ。これはなにかしら道具使うのかな。まず生身では無理だと思う」
「そうか。それだけわかったら十分だ」
じゃあここは諦めよう。諦めも肝心だからね。
さて、これからなにしようかなっと……ん? ロトさんからなにかフレンドコールが届いている。なんだろうか。
『第二層エリアについての話し合いをするそうなので第一層エリアの喫茶店”ルゥペ”まで一人で来てくださいませんか』
「おっ」
ちょうどいい。私もほかの人の意見が聞きたい。さすがに一人じゃ探索してもできる範囲は限られてるしやれることも今はないし……。
ふんふん。私一人って書いてもあるな。
でも話し合いって二人きりで? ロトさん私のこと好きなのかな? 女子と二人きりとかそういうことだよっていとこの姉ちゃんが言ってたような。
まあ、ないかなあ。私ってモテないし。それに、純粋に話し合いがしたいのかもしれない。
うーん。でも私もわかってることはそれほどないんだけどな。
まあ、参加することに意義があるとか言ってる人もいるし参加してみようかな。
「ちょっと用事できたから第一層エリア行ってくる」
「ん? ルルークに呼ばれたのか?」
「いや、違うフレにね。私一人で来てほしいっていうからさ」
「そうか。じゃあ、私たちは探索しているから行ってくるといい」
エルルゥにそう言われて私は行くと返信した後に第一層エリアに続く道を歩いていった。
ルゥペというのは私も結構な頻度で利用していた。
NPCが経営しているために値段もプレイヤー店より安いとか言われている。品質は下だけどね。
道行く人が私を見るのはなんでだろう。
まあそれはおいておいてだ。
つきました。ルゥペに。
「いらっしゃいませー」
店の中に入るとこちらに手を振ってくるロトさんと、なんだか無愛想な顔をしている男の人がいる。ロトさんの隣に座っている人は私を見ると、また目の前の紅茶に目を向けた。
……怖そう。
「こんにちは。ロトさん」
「ミキさんこんにちは!」
席に座りNPCの人に紅茶を頼む。
目の前にロトさん、その隣に怖い男の人。うーん。さすがにこの人の前では迂闊なこと言えないなあ。なにか言うと殺されそうだし。
触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。
触れないでそっとしておきたいが、名前だけは聞くべきかな?
「あのう。その隣の人のお名前は?」
ぎろりと私のほうを見る。
「ひぃっ」と悲鳴を上げてしまった。
「ごめんごめん。こいつは魔王のトロフィ。無口だがいいやつだよ」
「……無口ではない。慣れあう気がないだけだ」
「ツンデレ属性もある」
……つんでれ?
「ば、ばか! 俺はデレりゅことはないぞ!」
「ほらな?」
噛んでる。可愛い。
「あ、あんたもなれなれしく声をかけてくるなよ!」
「極度の人見知りだからこいつ。いいやつだからそこらへんは理解してね」
思っていたよりもいい人そうだ。
その時だった。
《七つの王すべてが誕生いたしました》
あの時と同じアナウンスが響いた。