ハーメルンの笛吹き男 ③
王国のある町。笛の音が静かに響き渡る。
私はネズミにまたがり移動していた。ハーメルンが笛で操っているネズミ。ものすごく早く到達できたと思う。
そして、村長邸。目の前には豪邸があった。
「村長の娘を攫うんだっけ」
「そう。村長は娘をとても大事に育てている。その娘がいなくなれば村長は気が狂うだろうね」
……これって犯罪なんだよな。現実でいうと。
でも、ハーメルンの気持ちもわからなくはないし受けてしまった以上やめますとは言い難い。それに、村長も悪いんだ。
冷静になって考えると私間違いを進んで犯そうとしているのか……。
「もう来るところまで来たんだ。やるしかない。僕の復讐のために」
「……聞きたいんだけど攫った娘さんはどうするの? こ、殺したりとかは……」
「さすがにそこまではしないよ。娘さんには罪はないからね。ただ、場合によっては洗脳はするかもしれないけど」
「そ、そう」
娘さんが聞き分けのいい子でありますように。ただそう願うばかりだった。
「じゃあいくよ。”気配消しの笛”」
ハーメルンが笛を吹く。この音の効果は気配をわかりづらくするらしい。
そして、私たちはドアを開けた。
中は洋館の館みたいなものだった。
窓からは月明かりが差し込み赤いじゅうたんを照らしている。まるで洋画のホラー映画みたいな……。うう、思い出すと怖くなってきた。
「ここが娘さんの部屋だよ」
と止まった部屋には”シャルルの部屋”と書かれていた。
ハーメルンは躊躇なく開けるとシャルルという女の子がベッドで寝ている。ぬいぐるみを片手に抱いて心地よさそうに眠っていた。
「……だれぇ」
むくりと起き上がり目を擦っていた。
「……僕かい? 僕はハーメルン。君を攫いに来たんだ」
「攫い……? おでかけ……?」
「そう。おでかけ。来るかい?」
「いく~」
寝ぼけてるんだろうか。随分あっさりいくもんだ。
ハーメルンはとてとてと近づいてくるシャルルちゃんを抱きかかえ部屋を後にした。そして、随分あっさりと誘拐は上手くいった。
シャルルちゃんはハーメルンの腕の中でゆっくり休んでいる。
「……隠れて。誰か来る」
ハーメルンがそういう。
とっさに隠れるとメイドさんが話しながら歩いていた。とりあえず盗み聞きをしてみる。
『ここ時給はいいけど主の性格が最悪よね~』
『娘さん贔屓しすぎよね。娘さん実は父親のこと好きじゃないらしいわよ』
『そうなの? そうよねぇ。シャルル様がまともな人でよかったわぁ』
『成り上がり町長なんてこんなものよ。私利私欲でしか動かないわ』
『村だった時代の男の子も災難だったわねぇ。あの子村長だった主に相当強い復讐心抱いていたとか』
『復讐でもされて殺されればいいのよ』
物騒だ。
だけど評判は悪いらしい。給料はいいから仕えているだけで悪いとすぐにやめそうだな。
ハーメルンも聞いていたのか頷いている。
そして、何を考えているのかそのメイドの前に立ちふさがった。
「あら、お客さん?」
「抱えているのはシャルルちゃん?」
メイドはいぶかし気な目で見ている。
「……復讐って言っても僕は人を殺す勇気はないよ」
「復讐?」
「ああ、君ってもしかして……。なるほど。うん。わかったわ。うん。シャルルちゃんを大事にしてあげてね」
メイドの一人が理解したみたいだ。
有能だな。
「え、なに。わかんないんだけど……」
「ほらエリィ。この子が逃げる手伝いをしてあげて。私たち以外のメイドにばれないようにね。私たち以外はあの主人に不満はないしすぐに騒ぎにするから」
「か、かしこまりました!」
おお、思わぬところで味方ゲット。