ラプラスの悪魔 ②
王国の図書館。
悪魔は、積みあがった本の上に座っていた。林檎を片手にこちらを覗き込んでいるのが多分悪魔だと思うんだ。
「ようこそ! 我は先を見通す悪魔! 名はラプラスと申す。汝らが相手か?」
と、ラプラスは笑った。
林檎を齧り、ゆっくりと地上に降りてくる。未来が読めるというラプラスは……とてもかっこいい顔をしていた。
「わからないということはすごく怖いことだ。わからないからこそ不安が生まれ、不安が心を渦巻き支配する。わからない恐怖から逃れたいからこそ未来を知りたいと感じる。実に愚鈍で面白き人間よ! 汝らは未来を見たいか?」
「……興味ない」
マーヤが切りかかる。
それを難なく躱していた。
「我は未来がわかるのだぞ? その程度に当たるわけがない」
ラプラスの悪魔は未来がわかるっていう話だから先読みしてくるのは想像はしていた。実に厄介だよこの悪魔。攻撃がまず当たらないとか無理ゲーすぎてなぁ。
わかるからこそ避けられるんだ。
「未来予知! 汝らはもれなく一人が倒されるだろう……」
と、その瞬間だった。
チリンがいきなり倒れている。剣で斬られていた。背後にはラプラスがチリンの剣をもって突っ立っている。チリンから剣を奪いそれで攻撃したと考えるのが妥当か……。
厄介だ。
「蘇生!」
「む」
チリンを蘇生する。
そして、強奪――!
「な、なぜだ!? なぜこの者の未来が読めない!?」
「ん?」
私のスキルは当たっていた。
……もしかして私には未来予知が通じない? なぜだろうか。私が神様だから? さすがに未来予知を神様相手にできるもんじゃないということなのだろうか。
ならば簡単だ……。
「ラプラス! 相手をするのはこの私だ!」
「ぬうううう! なんだこやつは! 我の能力が効かぬだとぉぉぉ!!」
能力のないラプラスはとても余裕で倒せた。
ラプラスは生きている。
「ラプラスの能力が効かない相手は私以外にいるの?」
「あ、ああ。おりますとも。アルテナ様、カーリ様は無理ですな。神としての力が歪めるのです」
なるほど。
「私は主神だから見れなかったというわけか」
「しゅ……しん?」
「そうだよ?」
私がそう言うとラプラスは納得したように息を吐く。
「そういうことだったのだな。ならば納得だ。……さて、話はここまでだ。浄化するならば一思いにやるがいい。我は抵抗せぬぞ。ただ、ソゥ……という輩に一つ能力を授けてやろう」
「え? 私?」
「我が見た過去は汝が我を討伐しようと誘ったのではないか。ならば提案者である汝がもらうべきであろうて」
うん。ソゥ様がもらうべき!
「……じゃあ、ありがたく……」
何のスキル貰ったんだろうか。
「ラプラスの悪魔……。能力は1分間自動回避」
強くない?
要するに自動で回避するってことでしょ? やばいな。当たらないってことか。全部の攻撃に。疑似未来予知って感じなんだろうな。
「渡し終えたぞ。さぁ、早く」
私は頷いて、光魔法を唱えた――