閑話 ユキショウグンが始めた日
俺の名前は雪野 千里。しがない中学生だ。
「ねね、このスイーツ今度一緒に行かない?」
「千里くんクッキーあげるよ普段のお礼♪」
俺は、女子にすごくモテる……。わけではない。
なんか知らないけど女子の友達が多いってだけだ。気安く接してもらえてるのは嬉しいし、仲良くしてくれるのも嬉しいけどモテてるって感じはしない。
なぜだろう……。
「ちーくーん。今日のごはんなーにぃ?」
「今日はオムレツ」
「まじでぇ? ちーくんのつくるふわふわオムレツ超好き~。結婚して私の嫁になってよぉ」
「何バカなこと言ってる。さっさとノート書け」
幼馴染である陽向 未卯は面倒くさがりでやる気を出さない。好きなことにはやる気出す癖に……。
すると、一人の女子が近づいてくる。
「ねえねえ千里くん。今日の弁当見せてくれない?」
この子は桐谷 三咲。VRのヘッドギアを作る会社の社長の娘さんだ。
「いいけど、そんな大層なものじゃないぞ」
俺は弁当を出す。
……げ、妹の間違えて持ってきちまった。まあ、いいや。ちょっと可愛らしいものだけども……。
「キャラ弁だ! これぱんちょんだし! こういうの作れるの!?」
「まあ、手先は器用だからね。妹が好きだから妹によくこういうの作ってやってるけど間違って持ってきちゃったみたいだ。今頃怒ってるよ」
昨日妹に『明日はぱんちょんのキャラ弁だぞ』と言って期待させちゃったからな……。めっさ喜んでいたし申し訳ない。今日帰ったらご機嫌取りしないとな。
妹は別の中学に行っちゃったし……お兄ちゃんと比べられたくないからってどういうことだろう?
「ほええ。すっごいねえ!」
と、一つ持っていかれた。
ウインナー……。まあいいけどさあ。
「もひゃっはよ」
「事後報告は禁止だろ……」
「……ごめんごめん。お詫びにいいゲーム教えてあげるからさ!」
「いいゲーム?」
「そう。話題のVRものだよ。千里くんには普段お世話になってるし定価の99%引きだあ!」
「それってめちゃくちゃ安くね?? 大丈夫なの?」
「うん! 一台や二台なんとかなるさ!」
あ、ありがたいけど……。申し訳ないな。
「……みさきぃー。それさあー、私にもちょーだーい」
「え? いいけど……定価は払ってもらうよ?」
「けち。買おうと思ってたからお金はあるよぉ。だからちょーだい」
「はいはい。毎度ありっと。二人にはソフトも一つつけて売るよ。A2Oでいいよね?」
「なにそれぇ?」
ああ、今話題のあのゲームか。公式サイトはちょっとだけ覗いたなあ。昨日くらいに。なんだかゴブリンキングが討伐されたらしい。わからないけど。
あっぷでーとって書かれたところにはあっぷでーとっていうのの詳細が書かれていた。
「今話題のゲームだよ。私もやってるからフレンドになろうね。私は……あ、やばい。もうすぐ授業! じゃ、戻るね!」
といって去ってしまった。
放課後三咲ちゃんの家により、ヘッドギアを二つ、A2Oを二つもらって帰ってきた。
一つを未卯のとこまで届け、一つを俺の部屋に置く。ちょっとやりたかったし早速プレイを始めよう。
キャラ名は……雪野って苗字だから雪がつくやつがいいな。
じゃあ、ユキショウグンだ。漢字はできなさそうだしカタカナで妥協。次。
種族? 種族は……うーん。無難にヒューマンでいいや。
あれこれ決めていざログイン!
目が覚めると噴水の前にいた。
きょろきょろと辺りを見渡すと未卯に似た人があらわれる。その人は俺を見つけると手を差し出してきた。おぶれ、という合図だ。しゃあねえなあ。
「未卯もやり始めたんだ」
「やりたかったしねぇ。名前はサンにして種族はヒューマンにしてこっちでだらーっとしたいなーってねえ。で、この後どうするのぉ?」
「うーん。どうしよっかねえ」
まだプレイスタイルを決めてないからなあ。
どうしようかと悩んでいると女性がこちらに近づいてくる。プレイヤー、かな?
「君君! なかなかいい顔してるねえ! そんなあなた! 私たちが設立するギルド”精霊の守護者”に入籍するつもりはないかな?」
と、胸がでかい女性が声をかけてくる。
ギルドか。たしかそういうプレイするのもありだとかインターネットで……。
「ギルドって人間関係とかめんどくさそぉ」
「そんなことない! 私たちはアットホームな雰囲気だからね!」
「それってよくあるバイト募集のやつ……うさんくさいな」
「うさんくさくないって! とにかく、お話でもぉ……どう?」
「まあ、お話だけなら……」
といったのだが。
女性は俺の腕を引っ張ると高らかに声を上げて奥のほうにいた人に声をかけていた。
「ミキー、メンバー二人追加!」
えっ、入るって言ってないのに!?
……あっ、でもなんだか優しそう。
「……まあ、いっか」