脆弱が見せるは闇の種 ③
呪い耐性ないときついな……。
いざとなったら蘇生があるとはいえなるべく温存はするべきだろう。私のMPは多いとはいえ無尽蔵にあるわけじゃないし。
状態異常が多いせいでとてつもなく消費してるからね。戦ってるとすると回復する余裕なんてまるでないしMPももっと早く尽きていただろうな。
ちょこまかとすばしっこいネズミ特有の素早さに惑わされている。
「体力が半分を切った瞬間に動きが急に機敏化……」
クー・フーリンの攻撃もかすることすらなかった。
チリンも剣で切ろうとはしているがすばしっこくて当たらない。厄介だぞこれ。あまり大技使おうとすると周りの木々が邪魔になるし。ここが平原でもあまり広くはないからね。
「ちゅちゅ!」
「ぐっ……」
「解呪!」
足止めする作戦はないか?
いや、あるんだけどそれはチリンが……。うーん。やる? チリンがいいって言ったらなんだけど……。どうしよう。チリンがいいなら……。
「チリン」
「なにっ!」
「一回、死んでもらえる?」
「は?」
チリンは頷いてくれた。
「チリン! ネズミを食い止めるよ! ネズミの前に立ってわざと攻撃を受けて!」
「わかった! デコイ!」
ヘイトがチリンに向く。
ネズミはチリンに牙を見せた。チリンはガブリと噛まれる。
「いまだクー・フーリン!」
「任された!」
「蘇生!」
「どおりゃあ!」
やりぃ!
チリンに攻撃したことによって止まったネズミにクー・フーリンのゲイボルグが突き刺さる。そしてチリンの蘇生も完了。ごっそり減った……。さすがに蘇生するのは結構MP食うか。
「なるほど……。こういう方法か……。あー、怖かったー」
「ごめんね。こうでもしなくちゃ当てられなくてね」
「まあいいよ。勝てるならね!」
チリンは笑って許してくれた。
ありがたい。本当は怖いんだろうけど、こうへっちゃらって顔をしてくれるのはうれしい。チリンは私のよき理解者だ。
ずっと一緒にいたいな……。
「まだ蘇生はできる?」
「え? あ、うん」
「ならさっきの方法でやろうか! すぐに終わるでしょ! あのHPだし!」
「おっけい!」
この方法を使ったことで楽にボス討伐が可能となった。
ハメ…というんだろうか。このボスはすばしっこいのと呪いと攻撃がちょっと高いだけでそれほど苦戦するボスじゃないと思いました。
だけどこれって私たちしかできない方法だよね。少なくとも蘇生魔法を使えなくちゃだめだし。
《チリン、ミキにより第六層エリアボスであるダークデッドマウスが討伐されました》
《Another Arcadia Onlineのアップデートを始めます。皆さまは一時間後には強制的にログアウトさせられます》
そのアナウンスが聞こえる。
私はチリンに駆け寄った。
「ごめんね。ああでもしなくちゃ勝てなくて」
「大丈夫。私ミキのことは信頼してるし。他の人に言われてたら従わなかったよ」
「ありがとね」
「うん。まじで感謝して。ゲームとはいえ超怖いんだからあれ」
「今度なんかおごるよ」
「まじで? なら駅前のケーキ屋! あそこのシュークリーム美味しいんだよねー! レデイースデー狙って食べに行こうよ!」
「わかったよ」
チリンは微笑んだ。
「じゃ、ログアウトするよ」
「私も。また明日学校でね」