英雄の幼少期
ちょっと胸糞?です。
それは、悲劇だった。
ある一人の女が槍を手にし、果敢に目の前の魔物に向かっていく。いや、女というには些か幼すぎるかもしれない。年端も行かない少女が槍をもっていた。
少女は大人顔負けの実力を持っている。だがしかし、無敵、というわけでもなかった。
「はああああ!」
少女が持つ槍は敵を貫く。
猛進撃は止まらない。人間より力は上……にはなっていた。すでに歴戦の戦士みたいな実力を持っている。それが悪かったのかもしれない。
王国の上層部の騎士に目をつけられてしまった。
ある日の事。
「えーっと、おつかいは……」
少女は母親から頼まれたものを買いに来ていた。少女の母親は普通の人。だが少女は母親を慕っており大好きでいる。母親も優しく時に厳しい。いい母親だった。
「クー・フーリン、だな?」
「……なに?」
少女は声をかけてきた鎧を着こむ男性を睨んだ。
男性は笑っている。気味が悪いと思えるような笑みを浮かべていた。少女は危険を感じ槍を構える。逃げる、という選択肢は彼女の中にない。
立ち向かってくるのならば応戦するのみだった。
「そんなに構えないでくださいな。僕はただお話に来ただけですよぅ。国の騎士にならないか、とね?」
「……あいにくそんなのに興味はない」
「ははは、なくてもなってくださいなー。大事な母親、どうなるか知りませんよ?」
其の言葉が少女を怒らせた。
有無を言わさず槍でつく。だが、驚いたことに目の前の男性は少女の槍の一撃をかわした。少女は驚いていた。並みの男性なら普通は避けれない。避けるほど反射神経がよくない。
「……私のお母さんに何するつもりだ!」
「ふふ、何するつもりでしょうねぇ。これは取引です。私の部下がすでにもう向かっているのでは?」
「うるさい!」
槍で何度もつくが当たる気配はなかった。
少女は我を忘れそうになっている。だが、まだ化け物にはならなかった。まだ薄い希望があったから。母親が無事だという希望が。
だがしかし、それも打ち破られる。
「フー!!」
「お母さん!?」
お母さんが、兵士に剣を突き立てられていた。
それを見た少女は槍を手にし兵士を貫こうとする。だがしかし。それはできなかった。なぜなら、兵士の一人が後ろからお母さんを切ったのだから。
「お母さん!」
「ふー……。こんな、クズ共に……なるんじゃない。大丈夫。傷は浅いよ」
それを聞いて安心したのだが。
「ほう? ならば、首でも切ろうか」
そういった兵士がいた。
兵士はお母さんの髪を掴み、首に剣を当てている。少女は、もう、自我を押さえるのが無理だった。
槍を投げてその兵士の心臓を貫く。兵士は何が起きたかわからず、ただ胸の槍を見るばかりだった。そして、その場に倒れる。
「フー!」
「よくもおおおおおおおお!!!」
お母さんの声に反応しない。我を忘れていた。
槍をぶん回し兵士を一人一人貫いていく。
兵士は応戦を試みるも無様に死んでいくばかりだった。
「おおおおおおおお!!」
「フー!」
その時だった。
気味悪い笑みを浮かべていた男に槍を向けられる。気味悪い男はにやつき、そして……。母親の元に逃げた。
そして、母親の後ろに隠れる。
「あなた……!」
「ここで、死ぬわけにはいかないのでね……。なーに、あなたのお嬢さんを信じてくださいよ」
「クズ……!」
希望はもうなかった。
母親の胸に、深く、槍が突き刺さった。目の前のが見えてない少女によって。母親は貫かれた槍を掴む。痛い。倒れそうなのをこらえた。
「フー!」
その声で少女は我を取り戻す。
「おかあ、さん?」
目の前の状況を見て、把握するのに数秒かかった。
「お母さん!? えっ、いや、私は……」
「ふ」
お母さんは名前を呼ぶこともできなくなった。
少女は絶望する。自分が自分の大好きなお母さんを殺めてしまった。殺してしまった。泣き叫び、喚く。少女の拠り所を自分の手でつぶしてしまった。
「うわあああああああああああああああ!!!!」
取り乱す。母親の血で体が汚れまくっていた。
「バカなやつですねぇ。さて、今のうちに」
そして、少女の首に首輪がまかれるのだった。
そして、国のいいなりになり、使い古された少女は売却された。
「……お母さん」
今での少女の中にお母さんを殺したという絶望が、ある。
忘れられていない。隷属の首輪がまかれていても、その強い絶望だけは忘れることがなかった。
「……頑張る。お母さんを殺しちゃったんだから……贖罪のために戦う」
少女――クー・フーリンは決意した。
過去話です。
本当はミキたち書こうかな―とは思ってたんですけどね。なんか過去話(設定)が思い浮かんだので。こんな悲しい過去がありましたとのことだけ。