ミキちゃん・イン・インビジブル ①
私は不器用だ。昔からひどく不器用だった。
「……絵のセンスが壊滅的だよね」
わかっている。
芸術は爆発だなんていうが、私の絵は爆発ではなく暴発という類のもの。
傷心から立ち直った今、やっていることはペンキ塗り。クエストで壁に絵を描いてほしいと頼まれたことから始まっている。私とチリンしかいなくてこれを受けていた。
で、私の絵はあれだ。
預言書でいう世紀末を表すかのような。モヒカンが出てきそうなものだ。
「……これ犬?」
と、チリンが私が描いた絵を指してそういう。その絵はあれだぞ。
「怪獣」
「……犬描いてみて?」
と言われたので描いてみた。
結構な自信作! これはどうみても犬……じゃないような。犬のような。あっれえ? 犬描いたつもりなのになんでゴジラになったんだ?
「犬を参考にしてゴジラ描けるかな普通」
芸術センスがスキルとして売ってないかな。
「チリンは相変わらずうまいよねぇ。羨ましい」
チリンが描いた絵を見てみると、それはもう有名なイラストレーターが描いたような美少女の絵があった。どことなく私の装備に似ている。
っていうか、これ私じゃない!?
「モデル、ミキ! どうよ! ミキの可愛さを魂に乗せて描いた!」
「め、目立つから今すぐ消せー!」
私はペンキをもってチリンの描いた絵に塗りたくろうとするが止められた。
しょうがない。痛み分けってことで私もチリンの絵をかいてやるさ。
「……何かいてるの?」
「……ふんふん。おっぱいにたしかほくろあったような」
「やめろぉ! それだけはやめて! 私の裸の絵を描こうとしてるんじゃない!? その絵だと私化け物なんですが!?」
えっ。いや、人。これはチリン。
全裸のチリンを描こうと思って……。いやいや、これは人だから! ちゃんとした人! ほら、人間の骨格してるし人間の髪の毛もあるし!
「魂吸われるわ! 消すぞ!」
と、チリンが白のペンキで私の絵を塗りつぶした。
なんで私だけダメなんだろう。裸というのがまずかったんだろうか。いや、そうだね。うん。裸の絵を描こうとしたのは悪かったね。
それだけは反省しないと。
「じゃあ続きでも描こうかな」
筆を持ち、今度は文字を塗る。
書いた文字は『SPLASH』何となくこの単語が頭に浮かんだので書くことにしたんだ。こればかりは得意だ。
「ん? なんだこのペンキ。邪魔だから退けよう」
と、チリンが手に持ったペンキは透明のペンキ。いや、それ水だろどう見ても。
すると、チリンの足下に石が。
「おわっ!」
チリンがこけ、私に見事命中。
私の頭上からペンキがかかってしまったのだった。いや、ゲームでよかったけど現実だったら大惨事だよ。
「気を付けてよ。チリン」
「ごめんごめんミキ……。あ、あれ? ミキ?」
と、頭を上げたチリンが私を探している。
いや、ここにいるけど。
「ミキ? どこいったの?」
「いや、ここにいるでしょ」
「へ? 誰もいないのにミキの声が……」
……?
そう言われた。気になったので、自分を調べてみる。
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呪い:不可視
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わお。透明人間……。
クエスト名:スプラトゥーン……
嘘。
クエスト名:ペンキを塗りたくれ!