美咲ちゃんの傷心
私は、今急いで階段を駆け下りていた。携帯に入った一通の着信。
『美咲が元気がない』
という美鈴からの電話。
美咲が心配で、私は急いで美咲の部屋に向かっていく。靴を履かずに、美咲の家に勝手に入った。美鈴が涙目でこちらを見ている。
「さっきエルルゥさんから聞いたんだけどなんか体調悪いって……。ゲーム世界で体調は悪くならないのに!って……」
「うん。わかった」
A2Oは高熱状態や、体に異変があるとすぐにログアウトさせてしまう。
作業中だろうがなんだろうが。おかまいなし。体のほうが大事だから。風邪ひいたときはログインはお勧めできない。
高熱だとまずログインすらできないから。美咲は知らなくてログインしようとしたらしいけどね。
「美咲は部屋?」
「う、うん。ベッドで寝てる」
寝てる、か。
起こすのも申し訳ない。ログインしてすぐログアウトしたのはフレンド履歴で分かったけれど、なんでなんだろう。
美咲は、コンビニに行くって言ってログアウトした。コンビニで何かあった……?
美咲は、何か嫌なことでも……。
「美咲帰ってきた時何か言ってたりなにかしてなかった?」
「え……。いや、無言で部屋に向かっていったよ。左手首を抑えながら……。ん? 左手首?」
左手首……。傷が残っている手だ。
すると、外から声が聞こえてくる。
「おーい! ひーろーせーさーん! あっそびましょー!」
と、聞き覚えがある声が聞こえてきた。
ドアを開けると、そこには、原田がいたのだった。
なるほど。こいつとあったから過去の傷が痛みはじめたんだ。
「……ありゃ。広瀬ちゃんじゃなくて葉隠ちゃんがきたよ」
「何の用だ? 原田」
「別に? 広瀬ちゃんと遊びたいなーってね」
嘘だ。いじめの標的が来たから、またいじめようとしているだけだ。
原田は根っからのクズ。いじめは美咲だけじゃなかった。気弱な男の子もいじめ転校に追いやったりしている。
クラスの人気者だったやつが毎日泣いていたこともある。
「そう。でも、あいにく美咲はいないよ。帰ってきてない」
「そうなんだ。じゃ、帰ってきたらメールでも教えてや」
教えるわけないだろ。
私は扉を閉め鍵をかける。あんな奴の顔なんか見たくもない。
それにしても原田。
他県の高校にいったはずだが。帰ってきたのか? 冬休みにもまだ早いこの時期に? なぜ帰ってきたんだろうか。
まあ。なんにせよ。
美咲はコンビニで原田と出会ったんじゃないだろうか。
「……美咲と話してくるわ」
私は、美鈴にそう言い残し階段を上がっていく。美咲の部屋の扉の前に立ち、ノックをする。返事はなく、私は勝手に入ることにした。
美咲は、ベッドに丸まるようにしていた。
「美咲。原田と会ったんだ」
「……うん」
元気がない。
「痛いの? 左手首」
「痛い」
私は床に座る。
カーペットはもふもふとしていて座っても足が痛くならない。まあ、それはおいておいて。
「大丈夫だよ。私がいるからさ。美咲」
「……」
「痛くない。それは幻惑だよ。ストレス感じたんだろうね。本当は痛くないはずだよ」
美咲に優しく言ってあげる。
美咲は強いけど弱い。立ち向かおうとする意思はある。ただ、絶対的な恐怖を覚えてしまったら、対抗できなくなってしまう。原田に恐怖を感じているんだろう。
あんなことがあったんだ。仕方ないとは思う。
「大丈夫だよ。美咲。安心して」
美咲の頭を撫でてあげる。
美咲は、小さな声でうんとうなずいた。
「……大丈夫ならゲームやろうよ。鬱憤とかあるだろうしゲームで晴らそうか!」
と、美咲にヘッドギアを渡した。
私も一応持ってきておいたヘッドギアをかぶり、ログインしたのだった。
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新しい小説…書いてみました…