広瀬 美咲ちゃんの消失
12月。本格的な冬の到来だ。
私の住んでいるところは雪が降らないけど寒いことには変わりない。
「ずびっ……。今日ログインできない……」
この時期になると厄介なものが私の体を犯していた。
毎年かかるんだよ。インフルエンザ。今年はものすごく早かったけど。ともかくインフルつらたん。インフルエンザ……。珠洲に来てもらうわけにはいかないしね……。ゆっくり寝てよう……。
「……でも、まだスキルとかわかってないものもあるし、やりたいなぁ……」
ちょっとくらいなら、いいよね?
そう思って私はヘッドギアを取ろうとした。
だが、それが間違いだった。ふらついているわけで、バランス感覚があまりない。うっかり、ヘッドギアを床に落としてしまった。そして、よろけてしまって……。
バキッ!
という不吉な音が聞こえてきたのだった。
私の頭は、今起きたことを上手く理解ができないほど、衰弱している。
……やっちゃった。
目の前にあるのはヘッドギアだったもの。その残骸が転がっている。
「……どうしよう」
この頭の回転すらおぼつかない今となっては、もう、なにもできなかった。
残骸を拾い上げ、机の上にのせて、またベッドに横になる。
……気が付くとヘッドギアが壊れていた。
「ふぁあ!?」
変な声が出た。
な、なんでヘッドギアが壊れてるの!? 誰がやったのこんなこと……。
……あ、私だ。
私がよろけた時になにかを踏んづけた気がする。となると、あの時踏んづけたのはもしかして……。い、いや。美鈴が入ってきて壊してそのまま……。いや、美鈴ならちゃんと言ってくれる。
…………。
まじで?
えっ。あっ、いや、え?
「どうしよう!? 何やってんだ私!?」
これじゃA2Oできないじゃないか!?
どうするんだよ! え、えっと、ま、まずどうすれば……。す、珠洲に相談してみよう!
「ヘッドギアを壊したァ?」
珠洲にそう言うとちょっと怖い顔をした。
そ、そうだよね。珠洲からもらったもので壊されたとなるとね、そら不快だよね。あ、謝ろう。
「ごめん! 意識が朦朧としてるときに踏んづけたみたいで!」
「インフルになってた時にやろうとしたのかよ……」
「た、多分そんな感じ?」
覚えてないけど。
「はぁ……。ゲームにはまってくれているのはいいけど、修理代はさすがに出せないよ。ヘッドギアに関しては本社に送れば修理できるしゲームのデータはA2Oのサーバーに残っていると思うからいいでしょ」
「珠洲……!」
「ただ、修理代出せる?」
「……おいくら?」
ヘッドギア本体ですら高いのに、修理代が高いとなるとね。私じゃ払えるかどうか……。
「破損のレベルによるね。ちょっと見せてよ壊れたもの」
というので私の部屋に案内して机の上の残骸を見せる。
すると、珠洲はすぐに私のほうを向いた。
「これもう買った方が安上がりってレベル」
「……はい」
それじゃあ、買いますよ。
お金あるかな……。ば、バイトしようかな。今すぐやりたいし親から金借りてバイトして返すっていう方針で。
ちょ、ちょっと相談してみよう!