心なき魔王と精霊神の大木 ⑤
未だにロトは来ない。
そして、魔王の体力もつきかけていた。たぶん、あと200くらいしか体力は残っておらず、やっとここまで来たかという感じ。
『あともう少し!』
その時だった。
「遅れた! そいつやればいいんだね!」
この声の主。
そう。勇者ロト。ロトは剣を振った。すると、魔王は倒れてしまってポリゴンとなってしまう。中にいた人は地上に落ちていった。
……。えっ。
「た、倒したのか?」
……ちょっとこれは、ねえ。
これはダメでしょ。流石にさ。
「……大丈夫?」
私の大樹化も解く。
多分、この場にいる人はみんな、いたたまれないだろう。だって、最後の一撃が、奪われたのだから。遅れてきたロトによって。
いいとこどりされるのも嫌なものだ。
「……助けに来てくれてありがとう」
「お、おう」
でもさ、最後の一撃を……決めることはしなくない? ロトさんや。遅れてきてそれはないよね? ちょっとムカついたよ私は。ここで一緒に戦ってくれている人ならまだしも、一撃しか貢献してない勇者さん。
「……だけどね、いらなかったよ」
むしろ、恨みを買ったよね。
「やい勇者! 遅れてきやがって! なんで美味しいところをとってくんだ……?」
「これはさすがに嫌だよ。いいとこだったのに」
「落とし前付けろよ! 遅れてきてとどめだけかっさらっていきやがって!」
他のプレイヤーからヤジが飛ぶ。
私もヤジを飛ばしたい……。
「……ま、来ただけいいじゃねえかよ。魔王を倒すのは勇者だって定番があるんだ」
「トロフィ……!」
「ま、ヒーローは遅れてくるもんだってもいうがヒーローは勝てそうな獲物を横取りするってこともねえよな」
「トロフィ……」
トロフィもちょっとは恨みでもあるのかな?
「気にすんなよー! 獲物はまだあるさ! 経験値は俺らに入ってんだしそれでいいだろ!」
ガガトツさんは前向きなようだ。
「……もうちょっと早く来てほしかったよ。とどめだけ刺されるのはちょっと気分がいいものじゃない」
私は優しく言ってあげた。
ロトだってタイミングが悪かっただけって信じたい。今まで何していたかは知らないけどね。
「で、今まで何してたの?」
「……王都で買い物」
「とどめだけもらっていかないで」
「手のひら返した……」
クエストで離れられないわけじゃなくて王都で呑気に買い物してただって? それはいかんだろう。
一人だけ王都でのんびりと過ごしてやがって……! それでかけつけてとどめだけ貰っていきました? なめてるの? 私たちの事。
「……これは擁護できないよ」
「クエスト途中とかならまだよかったんだけどね」
クエスト途中で離れられないとかなら納得はいったけど王都で買い物して……。豊かに暮らしやがって! 勇者っていうのがいけないんじゃないかな?
《大勢のプレイヤーにより第四層ボスである狂った精霊魔王が討伐されました》
《Another Arcadia Onlineのアップデートを始めます。皆さまは一時間後には強制的にログアウトさせられます》
とのアナウンスが聞こえる。
まるで喧嘩はするなって言っているみたいに。
「……ま、許してあげるよ私は。過ぎたことだしね」
気にしても仕方ないけどね。
これが原因でロトやめちゃっても嫌だし私は許すよ。
「ロト。次は早く来てね。私はこれだけでいいや。これからも仲良くやろうよ」
「ミキちゃん……!」
「……用事は済んだ? なら渡したいんだけど」
「あ、うん」
マーヤが出したのは薄い黄緑色のドレス。
自然の色を意識してく釣られたのだろうか。
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・精霊王のドレス
精霊王の加護を浴びたドレス。体力100上昇、魔力200上昇
スキルスロット:毒無効、魔法封じ無効、睡眠無効
・精霊王のブーツ
精霊王の加護を浴びたブーツ。素早さ300上昇
・精霊王の手袋
精霊王の加護を浴びた手袋。魔力100上昇
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いいんじゃない?
防御力も前より上がってるし、なにより可愛い。まるでお姫様みたいだ。
っていうか、この格好前に流行った森ガールてきな印象を受ける。いいねこれ。動きやすいしいい装備だ。
「ありがとう。マーヤ」
「別に。お礼だし……」
装備も新調したし。次のエリアが楽しみだな!
ロト「えっ、今ボス戦行ってるのかな? 現場に行きたいけど金かけて王都に来たし……。元は取りたい。ミキちゃんが何とかしてくれると思うし少しくらい遅れても……」
って言ってたりする。