大女優 真野ちゃん
大河ドラマ「いくさば」でデビューし、数々のドラマで大抜擢される国民的大女優。今は私と同じ高校二年生らしい彼女、生出 真野。
彼女は、この錬金術店のオーナーをやっているなんて誰も思うまいて。
「本物ですか!? すごい! 私大ファンです!」
まさかゲームで本人と会えるとは思っていなかった!
美形補正あるとはいえ、本人に完全に近いように似せることなんてまずできない。つまり本物。真野ちゃんが私の目の前にっ……!
「ありがとう」
「いくさばも、Rの見方も出演しているドラマはすべて見ていますっ! 嬉しいっ!」
録画もして、DVDにも焼いて保存しているほどだ。
ちょっとテンションが上がってきた……!
「ありがとう」
「ふぁああああ……! 幸せだぁ……!」
「そう。よかったね。で、ちょっと話があるんだけどさ」
「はい!」
真野ちゃんの頼みならなんでも!
「あの、私がこの店をやっているってことは秘密にしてくれないかな? 騒ぎになると思うし」
「それくらいのこと! 任せてくださいよ! 私口は堅いので!」
秘密というものは死ぬまで守り通すもんね!
「自分で口固いっていう女は信用できないんだけど……」
「もう真野ちゃんの頼みなら死んでも言いませんよ!」
「いや、自分の命は大切にね!? というかここで騒がれると気付かれるからちょっと落ち着いて?」
「はい」
「うわっ、切り替えはやっ!?」
静かにしろと言われるのならそれに従うのみですよね! それがファンの節度ってものです!
「なかなか面白い子だね……。それで回復ポーション+5だっけ。今作るよ。それまで待ってて」
「はい!」
私はフードをかぶり直し、釜をかき混ぜる彼女をずーーーっと眺めていた。
さっきの魔女のイメージはなくなって完全に真野ちゃんのイメージになっている。これも演技なのかもしれない。プライベートでゲームしてるのかな?
ああ、あわよくばフレンドになったりしたいな、なんて。
「はい、できたよ」
と、真野ちゃんから手渡されたのは回復ポーション+5。ちゃんと約束通りの品だった。
あ、代金代金。えーと、50万だっけ?
「そんな多くないよ!? 千二百!」
「はーい」
私はイベントリの中から千二百円を取り出し手渡す。このゲームは人の手で持てない重量の物じゃない限り手渡ししか渡す方法はない。
リアルさを求めるとこうなったわけだ。
「毎度ありぃ」
「……」
「…いかないのかい?」
「あっ、いや、その……」
名残惜しいです、なんて言えないよ……。迷惑になっちゃうもん。
「……しょうがない。名残惜しいなら特別にフレンドになってあげるよ」
《ソゥからフレンド申請が来ました。承認しますか? はい/いいえ》
……えっ。
「えええええ!? なってくれるんですかあああ!?」
「うん。君みたいに迷惑を考える熱狂的なファンの子ってそうそういないし、それに……」
「それに!?」
「君、面白いしね。リアルで会いたいと思えるよ」
「会いましょう会いましょう!」
「決断が速いな……。だったら、どこに住んでるかだけ教えてもらえる? 逢いに行くから」
「私は鵜坂市に住んでますっ!」
「結構近いね……。わかった。明日でも会うかい?」
「はい!」
いやー、ゲームってやっているもんだねー!リアルで会えるなんて光栄だよ!
って、クエスト忘れちゃいけない! 届けなきゃ!
浮かれてローラースケートで技を決めながら男の子の元へ向かう。
男の子は路地裏の壁に寄りかかっていた。
「坊や。はい、回復ポーション+5。これでしょ?」
「お姉さんもってきてくれたの……?」
「うん。約束だからね」
それに、坊やのおかげで真野ちゃんに出会えたんだよー。
「ありがとう! そうだ! お姉さん! 家に来てよ! お父さんを襲ったモンスターの特徴を聞いてほしいんだ!」
「え? あ、うん」
私は男の子に引っ張られて家に連れ込まれた。