チリンと強敵
目の前のチリンは泣いていた。
泣きじゃくり、必死に、必死に抗っている。それもそうだろう。チリンが戦っているのは紛れもなく強敵だ。
――まあ、自業自得だけどさ。
「ったく、A2Oにのめりこみすぎて夏休みの宿題をやらなかった挙句? やらなかったことを隠し毎日忘れましたといって最終的には先生が取りに来てやってないことがばれて母さんから終わるまでゲーム禁止ということか」
そう。夏休みの宿題を終わらせていなかったチリン――もとい、珠洲。
「だってえ…! 美咲がやろうっていわないから……」
「人のせいにしない。それに、私はてっきり見せてって来ると思ってたよ……」
毎年、宿題を片手に見せてと家に来るチリンが恒例だった。だから、今年もそうだと思ったんだ。
「で、私も巻き添えにしなくてよくない?」
「みざぎがいないどわだじむりぃぃぃ!」
「わ、わかったよ。わかったから泣き止んでよ」
私は、珠洲の部屋で必死に宿題をしている珠洲を見ていた。
私が何で付き添わなくちゃ……。
「……喉乾いた」
「飲み物でも買ってくるよ……」
「まってえええ! 私も行ぐううううう!」
「わ、わかったよ!」
珠洲は勉強が嫌いだ。
常に赤点ぎりぎり。私が教えていないともう赤点しかないと思われるレベルでひどい。ゲームについての知識はものすごくあって、ゲームの情熱を少しは勉学に生かしてほしいとも思った。
「早く終わらせないと一人だけ修学旅行中に宿題というイベントになるからね」
「それだけは嫌だよぅ……」
ならやりなさい。
「それにしても修学旅行か……。今年は東京経由で北海道に行くんだっけか」
北海道と言えば食べ物の宝庫。
まあ、それよりもメインは東京でA2O開発課の見学。私たちにとってそれは嬉しかった。なにより、運営の立場に少しなれるから。
いや、運営みたくモニターから他のプレイヤーのことを見るだけなんだけど。もちろんネームは伏せられるらしいが。
「あれ、広瀬さん」
「ん? ああ、神林くん」
坊主頭の神林くん。彼は野球部に所属しているらしい。
「奇遇だね」
「そ、そう、だね」
ん? なんか挙動不審?
「あ、あの。しゅ、修学旅行なんですが、お、おお、俺と回りませんか!」
「え? あー、私は女子の友達と回ろうかと……」
「そこをなんとか!」
と、顔を赤く染め、しどろもどろに誘ってくる。
勇気を出したのか、手が震えている。ふーむ。赤面状態になって手が震える。あーなるほど。
「私のこと好きなの?」
「なっ……!」
「は、はい! 好きです!」
やっぱり。私は鈍感じゃないとは思っている。けど、意外だな。私みたいな子を好きになる人がいるとか驚いたよ。
「そう……。でも、ごめんなさい。私、今、彼氏いらないんだ」
彼氏はいらない。私はそれなりに信用できる人じゃないと彼氏彼女の関係にはならないと決めた。
勇気出してくれた彼には申し訳ないけどね。
「そ、そうですか……。で、でも俺諦めません! 貴方の名前を神林 美咲という名前にしてみせます!」
結婚前提? 嫁入り前提だろそれ……。
「……青春だなあ」
「チリンも馬鹿なこと言ってないで飲み物買ったら帰ってやるよ。今夜は寝かせないからね」
「情熱的!」
「……殴っていい?」
ここから修学旅行編かなあ。
修学旅行でもなんらかの形でA2Oはやらせたい。
あと、ミキちゃんのことを好きな子もでてきましたね。坊主野球部とか鉄板ですよね。