優しい嘘
騒ぎが起こった店が大工スキルを持っている人が集まるとこ。なんて運がいいんだ。
チリンに報告する。
「先ほどはありがとうございました。まさかうちまでも狙われるとは」
「うちまでも? 私の名前を勝手に使う人多いんですか?」
「はい。貴方はトップに走る人ですし、どういう人かまでは知られていないんです。名前だけは知られているって感じなので脅すのにはもってこいの人なんですよ」
ええ、そんな使われてるの私……。気分いいものじゃないよねそれ。
「なにか対策でもしておくか……」
「私のフレンド全員に伝えておきますよ。精霊神の名前を使って脅しに来る人は相手にするなと」
「お願いします」
そうしてもフレンドじゃない人には届かないわけで。
世の中いい人だらけってわけじゃないんだよなあ。って改めて痛感した。
すると、ローイさんとカティさんからフレンドメッセージが。
『おい。お前の名前を使って脅してくるケートラってやつが来たぞ。お前なんも知らねーよな?』
『貴方の名前を使う人が来たんだけど知ってるかしら。ローティってひと』
わあ。二人にも来たか……。
追い返して構わない、知らない人だから……っと。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ。知り合いの生産職の方に私の名前を使う人が来たって報告がありまして。それで」
「ほほう。その生産職って人が気になりますね。トッププレイヤーであるカティさんとローイさんって人じゃありませんよね?」
「あ、よくわかりましたね」
「本当ですか!? 最近どこかのギルドと同盟を結んだとか聞きますが、もしかして貴方のとこと……」
「そうですね。私のとこです」
「すごいです!」
カティさんとローイさんってトップのプレイヤーの人だったんだ。初めて知った。
「で、本題に入りますが、大工スキルを所持している人がほしいんですよね? ならば、私の店の人を一人送りますよ。さすがに差し上げたりはできませんけどね」
「ありがとうございます。それで代金はいくらほどに?」
「いえ、取る気はありませんよ。先ほど助けていただいたのですし!」
「あれは私の名前を使われて怒っただけで……」
誰だって人の名前を勝手に使われて、嬉しい人はいないだろう。
いい人ならまだいいんだよ。例えばさ……安心づけるために俺は精霊神とお近づきなんだ。俺たちが困ったら助けを呼ぶよ。って安心づける嘘。ならまだ許容範囲内。
安心したいもんね。それなら黙って見過ごすけど……。悪事にまで使われるのはね。
「でも助けられたのは事実なんですから、ここはどうかタダでやらせてください。もしも嫌なのなら、増築などなさるときは私どもを頼っていただけるだけで結構ですので」
「……わかりました。それで大丈夫です」
「お兄ちゃん。私、死ぬの怖い……」
「ダイジョブだ!お兄ちゃんは精霊神とお友達だからな! 助けに来てくれる!」
そうそう。こういう嘘……って、本当にこういう嘘つく人いるのかよ!
そして、その兄妹二人は平原に向かっていく。現れたのは、運が悪いことに蜂蜜ベアーだった。蜂蜜ペアーはカモシカぐらいしか出ない平原のレアモンスター。力が強い。
初心者二人にはつらいぞ。
私はこっそり背後をつけているわけだが。
「お兄ちゃん!」
「マリーは俺が護る! お兄ちゃんに任せろおおおお!」
だが、お兄ちゃんは瀕死の重傷を負った。
「お兄ちゃん! 精霊神様呼んで! お友達なんでしょ!?」
「はは、マリー。あれは……」
「精霊魔法”火”」
私は華麗に登場し、男の子を助けてあげた。
「大丈夫?」
「貴方は……」
「私は精霊神だよ」
「わ、わわ、わたひはまりーともうしまひゅ!」
可愛い。小動物みたい。
「お、俺は……」
「体力少ないね。回復させるよ」
まだ回復小くらいしか使えないけどね。
回復ぅ。
「あ、ありがとうございます。俺はメルトっていいます」
メルト君にマリーちゃん。
小学生くらいかな? 可愛い。小学生もゲームやるんだね。
「あ、あの。勝手に友達だって言ってごめんなさい」
「お、お兄ちゃん?」
「マリー。あれは嘘だったんだ。ごめんな。お前を安心させたくて」
「……いいよ。本当に来てくれたし!」
「そうだな。ありがとうございました。本当に」
兄妹愛がすごいなあ。
「いいよ。嘘じゃなければいいんでしょ?」
私は、マリーちゃんとメルト君にフレンド申請を送ることにした。
嘘にさせないよ。君たちは、私と友達だよって。なんか、慣れないねこういうのって。
嘘だから悪いってわけじゃありませんよね。
安心させたいから嘘をつくとか、助けるために嘘をつくとか。世の中には優しい嘘っていうのもありますよね。今の世の中は嘘=悪って感じで作者は嫌気が挿してます。
なんて作者らしくもないことを考えちゃった話でした。