第五話~太陽のような少女~
あけましておめでとうございます。
更新が遅くてすいません。
「自己紹介が終わったところで、次の話だ」
それぞれの自己紹介が終わったあと、バッソは次の任務の説明を始めようとした。
それにパルミナが待ったをかける。
「その前に、そこの白いの……ハクレイの力が知りたい。白い獣って言ってもどんな力を持ったかわからないじゃない。仲間の力を知らなければ作戦にも影響が出るわ、さぁハクレイ。教えなさい!」
「……わからない」
ハクレイが白獣と適合したことは間違いない。身体能力も実験する前とは大違いだ。だが、ハクレイにはパルミナのように毒を生成するなんてできないし、ルーイエのように髪を触手にすることもできない。ほかの適合者は獣としての特徴が現れるはずなのに……ハクレイにはそれがなかった。
「はぁ? わからない。ふざけんな。フェルシオンは埋め込まれた危険種の力を活用して任務をこなすんだよ。それが分からなければあんたがここにいる意味がないじゃない!」
「でも、わからないものはわからない。埋め込まれて、ちょっとだけ身体能力が上がったけど、それと言って特徴が出ているわけでもない。だからわからない」
ハクレイの言葉を聞いて、ほかの者たちが唸り出す。聖獣と呼ばれる獣たちの伝承はほとんど残されていない。ハクレイの白い獣も『太陽を奪った白獣と金色の勇者』とハーレリアに残された碑文のみだ。
皆が唸るのも無理はない。
「ハクレイ、てめぇが宿したのは『太陽を守った白獣』で間違いないんだよな?」
「バッソ隊長は何を言っているの? 太陽を奪ったの間違いじゃないの?」
「うるせぇ、『守った』であってんだよ。たしかにこの国に広まっている物語ではそうだが、白獣を崇めていた宗教だと全く違う話があった。なにせ、聖遺物を手に入れるために宗教潰しをしたのは俺の部隊だしな。そこの資料では、世界に七体の聖獣がいたとされている。確か……
海を統べる蛇
大地を駆ける牛
空を舞う火の鳥
金色を纏う獅子
太陽を守った白獣
月を食らった熊
死を振りまく黒龍
の七体だな。お前はその中で太陽を守った白獣と適合したということになる。それぞれの獣は人知を超えた力を持っていたという話だ。そして、ある人たちからは神の使い、聖獣として崇められ、ある人たちからは災厄を振りまく化け物として恐れられたそうだ。
って俺のガラじゃねぇな。こんな真面目な話をしちまって……」
「いっやぁ~、そんなことないわ。バッソ隊長っていつもイカしているんだから~」
「気色悪いぞ、デル。てめぇ後でボコしてやるから覚悟しやがれ!
っと、どこまで話したかな。そうそう、聖獣か化け物かってところ。伝承によると……そうだな、となるとこいつの力は……グランディ!」
「なんすか隊長。俺はもう怠くなってきたんですけど……」
机に肘をかけてだるそうに返事をするグランディ。バッソは舌打ちをしながら、ハクレイにとって悪夢のような命令をした。
「いいから……そいつを剣で切れ!」
ハクレイはその命令を聞いて逃げようとした。だが、グランディに捕まってしまう。切られてしまうのかと思ったがそうではない。グランディはハクレイを守るかのように立ちふさがった。
「おい! いくらバッソ隊長だからってそんな命令は聞けねぇぞ! こいつは今日あったばっかりだが、仲間なんだよ! 痛めつけて欲しいのなら別にかまわねぇが、嫌がる仲間に無理やるやるのは俺の信条に反する」
「っち、クソッタレめ。だったら俺がやってやるよ!」
バッソの姿が掻き消える。そして、ハクレイの後ろに現れて、剣を振り下ろした。
誰もがそれに対処できない。ハクレイは死を覚悟する。
そして、激しい衝撃がハクレイを襲った。まるで硬い棒で頭を殴られたような、げんこつを食らったような、とても違和感のある感触。
ハクレイがそっと目をあけて見たものは、折れた剣を持つバッソの姿だった。
「ほれ、やっぱりな」
「うう、痛い……。隊長……これは一体? 私を切ったんじゃないの?」」
「ああ、切ったぞ」
ハクレイにはバッソが言った意味がわからない。だからほかのものに話を聞こうとしたのだが、みんな開いた口がふさがらない。
再びバッソに向き直るハクレイ。バッソの口から力について語られる。
「てめぇが埋め込まれた獣の力は、圧倒的な防御力だ。並みの剣だと折れちまうぐらいにな。おそらく、相当危険な……それこそ聖獣レベルにならねぇと傷一つ付けることすら不可能かもしれねぇ」
「で、でも、すっごく痛い!」
「それがお前の力の弱点つーところだな。どんなに危険な攻撃でも耐えられるが感じられる痛みは変わらない。捕まった場合ら心を壊される可能性すらある。その硬さについてはできるだけ隠しとけ。あと、痛みに耐える特訓をしとけよ」
「ど、どうやって……」
「また斬られればいいじゃねえか」
「い、嫌だ!」
ハクレイは怯えて頭を抱えた。何度も叩かれたら馬鹿になってしまう。それこそ怖い!
「別に無理してやれとは言わねぇよ。それより、次の任務について説明するぞ!」
「「「「「了解」」」」」
バッソが説明してくれた次の任務はリーナス家の皆殺しだった。
リーナス家は王妃であるバネット・フォン・マレリアの暗殺計画を企てているという情報が入った。
リーナス家はマレリア王国の中でも古い貴族である。それなりに発言力や権限も持っていた。だけどとある事件を起こす。その詳細はよくわからないが、事件の賠償として多額の金銭を請求されたそうだ。そこでサデス公爵が多額のお金を貸し与えているという。
その恩を忘れ、バネットが国を腐らせると妄言を吐き、暗殺計画を企てているそうだ。
今回、フェルシオンとしては、この反逆を未然に阻止することにある。協力者がどれぐらくらいなのかは把握できていない。しかし、協力者と関係は不安定なものだと報告があった。
ならば話は簡単だ。頭となっているリーナス家を潰してしまえばいい。だが、敵の戦力がどれぐらいあるのかは未知数。
そのため、リーナス領に向かい、調査、家に乗り込んで皆殺しにするという作戦のようだ。
ハクレイにはそれが作戦なのか疑問に思う。どう考えても力押しでねじ伏せるという感じだ。でも、ほかの者たちは納得している。いつもこんな仕事をしているのだとハクレイは悟った。
「移動は明日だ。今日はゆっくり休め。あとハクレイ」
「なんですか、バッソ隊長」
「お前は研究所に戻れ。まだ配属されたばっかりだからお前の部屋はここにない。この任務が終わったらこっちに引っ越してもらうつもりだ」
「わかったわ、バッソ隊長」
一通り話が終わったあと、ハクレイはフェルシオンの兵舎を後にした。
◇
日が傾き、空が燃えているように赤く染まった時刻。少し距離があったので遅くなってしまったが、ようやく研究所にたどり着いた。
ハクレイはいつも通り自分の部屋に向かおうとしたが、研究所の近くに全く知らない三人の姿が目に映る。
「なんだろう、あれ」
グランツ研究所は表向きは国民のために動いているが、実際は非人道的な実験を繰り返している場所だ。普通の子供たちが迷い込むようなセキュリティはしていない。
だというのに、研究所を覗き見る三人の少年少女がいる。不思議に思わないはずがない。
「ねぇ、何をしているの?」
「うわぁ、なんだこいつ!」
ハクレイを指さして叫んだ幼い男の子。どこかで見たような気がする。
三人は男が二人、女がひとりで、身なりの良い格好をしている。どう考えても、研究所に連れてこられた子供ではない。貴族の子供だ。
「私はハクレイっていうの。ここは貴方達が来ていい場所ではない。早く帰りなさい」
「貴様、誰に向かってものを言っておる」
「ほら、落ち着けよ、ケイネス。すまんな、弟が馬鹿言って」
「何を言っているのですか、ジル兄様。我らはマレリア王国の王族ですよ。無礼を働いているのはこの女ではありませんか」
どうやら、この三人は王族であるらしい。だとすれば、この研究所にやってきたことも頷ける。王妃バネットとサデス公爵は兄弟だ。
三人の子供たちが研究のことについて知っていてもおかしくない。ハクレイは膝を付き、詫びよとした。だが、女の子に止められてしまう。
「別に頭を下げなくていいのよ。おじさまに内緒で見学に来ているのですから。貴方は仕事をこなしているだけ、そうでなくて」
「ですが、王族の方に無礼を言ってしまったこともまた事実。どんな処罰も受けましょう」
「そうだ、お前など死刑だ」
「ケイネス、お黙りなさい!」
「なんでですか、マリア姉さま」
「この子を死刑にすることは私が絶対に許しません。なんでしょう。この子を見ていると暖かい気持ちになるの。私、この子をすごく気に入りましたわ」
そう言って、マリアはハクレイを見つめた。その瞳は強く輝いており、神々しさすら感じられる。ハクレイにはこの少女が太陽のように見えた。
「真っ白な髪、赤い目、白い肌、なんて可愛らしのでしょう。貴方はハクレイというのよね」
「はい、そうにございます」
「私はマリア・フォン・マレリア。この国の第一王女です。もしよかったら、私の元に来ませんか?」
ハクレイは一瞬だけ迷った。直感で感じるのだ。この方が太陽であることを。だけど今の自分にはフェルシオンという新しい家族ができた。仲間だと言ってくれた彼らを裏切るようなことはできない。それに、勝手にマリアに仕えるようなことをしたら、サデス公爵が何を言い出すかわかったものではない。
今のハクレイはサデスという悪魔の道具なのだ。
「ありがたい申し出でありますが、遠慮させて頂きます」
「それは、どうして?」
「私はこの研究所で行われた実験により力を身につけました。それを認められ、サデス公爵様に仕えているのです。主の決定を無視してほかの方に仕えることなどできません。それが例え王族であっても……」
「貴方は、おじさまに仕えているのですね。いいことを聞きました」
一瞬残念そうにしたが、サデスに仕えていると聞いて嬉しそうな笑みを浮かべるマリア。ハクレイは自ら太陽を拒絶したことに心を痛めながらも、平常な雰囲気を出し続ける。
ハクレイの後ろから何かが止まるような音が聞こえた。振り向くと、一台の馬車が止まっている。降りてきたのは銀色の翼の紋章が掘られている鎧を身につけた騎士だった。
「ジル様、マリア様、ケイネス様。ようやく見つけました。国王様と王妃様が心配しております。お城に帰りましょう」
騎士の言葉に従い、三人は馬車に向かう。別れ際、マリアがハクレイに囁いた。
「いつか、私の元に来てください。貴方から素敵な輝きを感じられます。ふふ、絶対に来てくださいね」
ハクレイは返事をしなかった。何も言えなかったのだ。
ただ、胸の内でこう叫んだ。見つけた、私の太陽。いつかあなたに仕え、守って見せます、と。
読んでいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いしますm(_)m