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第三話~白き獣を宿した少女~

申し訳ありません。

本作品は未完成ですが完結設定にさせていただきます。

ちょっと思った方向からズレてしまったので書き直そうと決めました。

リメイク版を別で投稿する予定です。

 グランツ研究所は今日も大忙しだった。なにせあの計画が実行する日が来たのだから。

 誰しもが忙しなく動く中、白衣の男が百十八番の前に現れる。


「さて、今日は記念すべき日だ。貴様の実験を行うぞ」


「そう、わかったわ」


 百十八番はとりあえず頷いた。前に決めた従順を実践するにはいい機会だったからだ。だけどこの適当さは白衣の男に伝わっている。

 白衣の男が呆れ気味にため息を吐いたので、百十八番はちょっとばかしムッとした。


 これから実験が行われる。薬剤投与と聖遺物を人体に埋め込む実験だ。

 これに適合できれば、百十八番は強大な力を手に入れることができる。適合、それすなわち白き獣の力を自由に使えるようになることを意味している。


 ただ、この実験は必ずしも成功するとは限らない。如何に適合率が高くても、意思が弱ければ埋め込まれた獣の意思に飲み込まれてしまう。

 危険種とは不思議なものだ。殺したらそれで終わりのはずなのに、その想いや意思といったものが死体が朽ち果てるまで消えることはない。

 だからこそ、死んでもなお力が残る。人々はなんとか倒した危険種の力を生活を豊かにするために活用した。

 だけど人に埋め込もうと考えたものはいない。このグランツ研究所以外は……。


 意思が宿ったものを意思を持つ者に埋め込めば、当然拒絶反応が起きる。意志の奪い合いが起き、それに負ければ獣に落ちてしまう。

 ハルダーは元々心優しい少年だった。それが実験後に力こそすべてと考えるようになったのは、半分以上の意思や心が埋め込んだ獣に食われてしまったからだという研究報告が出ている。

 そんな危険な実験を、今から百十八番に行おうとしている。大人は醜い。世の利益のために、平気で弱者を食物にする。その被害者であった百十八番はそんなこと知る由もない。

 弱き者は何も知らずにただ搾取されるだけなのだから。


「百十八番、ここに座りなさい」


「はい……」


 そこは真っ白な部屋だった。沢山の計器に数人の研究者。そして白き獣の聖遺物が置かれている。

 研究者は百十八番の腕と足を縛り付けた。

 身動きができない窮屈さに、百十八番はムズ痒い感じがしたので、抗議しようとしたのだが、口まで塞がれてしまう。

 目を黒い布で隠されて何も見えない。

 体に貼られている電極の感触がいつも以上に感じられる。


「さて、準備が出来たか。これから白き獣の投与を始めるぞ。各自、計器から目を離すな」


「「「はい」」」


「では、百十八番にバルタリンを投与。その間に、聖遺物を液状化させろ。できたら百十八番に投与するが、絶対に失敗するなよ。それはこの世界に一つしかない。失敗したらサデス様に殺されると思え」


「は、はい」


 恐怖に引き攣りながらも、白衣の男の指示に従う研究員。聖遺物を容器に入れて、ある薬品を加えることにより液状化した。

 魔物をそのまま移植させた場合、拒絶反応が強い。それに、人間の体に危険種の体を取り付けたところでうまく使えるはずがない。人の体で最大限能力を扱えるようにするには、液状化した危険種を体に流し込み、人の体そのものを変質させてしまえばよかった。そうすれば、人の体を持ったまま、化け物の力を扱えるようになる。ちなみに、理論上だと体を自在に化物に変質させることも可能と出ている。これがグランツ研究所の最大の成果といえよう。


 バルタリンという薬物を投与されたことで、百十八番の体は痙攣し始める。「うが、ぁああぁ」と声を漏らし、とても苦しそう。

 辛くて、苦しくて、助けて欲しい。だけどそんな声すら出せない。それに出せたとしても研究員たちは聞く耳持たないだろう。


 苦しむ百十八番をよそに、研究員は計測器に目をやりながら報告を繰り返す。


「数値良好。そろそろ行けます」


「わかった。白き獣を投与しろ」


「はい」


 腕に太めの針を刺され、黒く変質した液体を注入させられる。

 徐々に体に入れられる内に、百十八番に変化が起き始める。


 今まさに実験を行っている最中だというのに、全く別の場所にいる不思議な感覚。

 百十八番の意思の目の前にいる、真っ白な毛並みをした狼がいた。

 白い狼は、空を見上げて涙を流している。


『私は守れなかった……あの太陽のような方を』


 これは白き獣の意思なのだろうか。百十八番は首をかしげる。


『ずっとそばにいたかった。見捨てられて傷ついた私を救ってくれたハクレイ様。私の生きる希望になってくれた。私を救ってくれた、手を差し伸べてくれた太陽のようなあなた。ずっと大好きでした』


 白き獣の意思から暖かさが感じられる。どれだけ主のことが大好きだったのかがわかる。暗い世界に生まれた百十八番に取って、とっても羨ましいと思えるほどに輝かしい心。


 百十八番は少し嫉妬した。


 羨ましい、妬ましい、なんで百十八番にはそのような存在が近くにいなかったんだろう。

 でも、そう思うのは悪いことだと感じた。


『聖獣として神に生み出されたはずなのに、排他され、化け物として苦しみ続けるしかなかった。そんな暗闇の中から救ってくれたことをいつまでも感謝いたいします』


 この獣は百十八番と同じような運命をたどっていたのだ。神という身勝手な存在に適当に作られたからだろうか、世界の闇に触れ続けた。

 闇の奥底でずっと苦しんでいるところに、暖かな手が差し伸べられたのだろう。

 もし、百十八番が同じ状況にあったならば、その手をしっかり握って、二度と離したくないと思ってしまう。


 同じなのだ。この白い獣と百十八番は。

 違うのは、百十八番まだ、太陽のような主に巡り会えていない。会えたのは胡散臭い白衣の男と碌でもない研究所の職員たち。そして、実験動物として扱われている子供たち。百十八番は未だに闇から抜け出せない。


(いつかきっと……私の太陽を)

『またあの方の元に戻りたい。今度は絶対に……』


 そう思わずにはいられない。白き獣も同じことを思っていたんだと、なんとなく感じた。

 同じ生まれ、同じひどい目にあって、そんなだからこそ、百十八番と白き獣の適合率が高かった。


『もし、もう一度やり直せるなら、今度は絶対に守り抜きます』


 暖かな意思に心地よさまで感じてきた頃。それがいきなり一変する。

 主への感謝の想いから、強烈な憎しみに変貌した。


『そして……あいつだけは殺す。絶対に殺す。あいつが主を奪った。あいつが全てを狂わせた。あいつが、あいつが、あいつが、殺してやる、食らってやる。絶対に、絶対に……』


 暗い感情が百十八番を侵食し始めた。苦しい、辛い、なんで怒り狂っているのかわからない。だけど、不思議なワードが出て、なんとなくわかった。


金色こんじきの悪魔……、アイツは必ず滅ぼしてやる』


 聞いた伝承とはまるで違う。白き獣から見たら、金色こんじきの勇者は主を奪った悪魔に見えたのかもしれない。

 大丈夫、今度は百十八番が頑張るから。今は眠って欲しい。白き獣に感じるところはあるが、もうすでに死んでしまった存在だ。だから任せて欲しいと強く思う。すると、意思がゆったりと混ざりあう感触がした。


(白い獣さん。私が……太陽を見つけて、必ず守るよ。だから、ゆっくり休んで頂戴)


 二つの意思は溶け合って、世界は白く塗りつぶされた。



 百十八番が目を覚ますと、日の光が窓から指していた。あれからどれぐらいの時間が経ったのだろうか。

 ベッド以外に何もない、貧相な部屋。天井を眺めても白一色だ。


「実験……どうなったんだろう。私が生きているってことはーー」


 独り言をつぶやいていると、ドアらしき場所からノックが聞こえてきた。百十八番は「どうぞ」と短くいうと、白衣の男が入ってきた。


「目を覚ましたか。貴様は一週間まるまる寝ていたのだぞ」


「そう、それで? 私はどうなったの」


「ほら、これで自分の姿を見るがいい」


 白衣の男に渡された手鏡で、百十八番は自分の姿を見た。

 黒かった髪は真っ白に染まり、瞳は赤くなっている。かなり白に近い肌になって、白き獣を擬人化したかのような姿になっていた。


「実験は成功だ。当分は体力回復に努めろ。そのあとはある部隊に配属されることになった」


「部隊? でもハルダーはずっとここにいたよね。実験が成功してすぐにそうなるものなの?」


「あれは失敗作だ。だがお前は違う。優秀なものはより学べる環境に移してこそ使える人材になる」


「そ、わかったわ」


 そう言ったあと、百十八番は窓から外を眺めた。

 世界を照らす太陽が眩しい。

 いつか、あの太陽のような主を見つけることを、胸の内に想い浮かべながら、太陽の光に手を伸ばした。

読んでいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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