表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

山桜に恋した彼の話








  いつの頃からかは忘れたが、昔から、春になると不思議な夢を見ていた。


 白い花の咲く細く頼りない木に美しい女性が寄り添うように立っている夢だ。

 俺は彼女の関心が買いたくて、毎日毎日通い、語りかける。ただそれだけの夢だ。


 他の人と違って、不思議なモノが見えた俺は、その女性がこの世のものではないとわかっていた。

 人間ではないと分かっても、彼女の笑顔が見たくて毎日毎日語りかける。


 真っ白くきめ細かい肌に、真っ黒の絹糸のような長い髪。

 どこを見ているのかぼんやりと宙を見つめる黒真珠の眸。

 精緻な人形のような美しい顔は、彼女が生きていないと知らしめるかのように表情がなかった。

 それでも、語りかけ続けた。


 するとどうしたことだろう。日々日に、彼女に表情が生まれてきた。目が合うようにもなった。

 夢の中の俺は嬉しくて嬉しくて語りかける。

 たまに、従者らしき他の人間も連れていくことがあるが、彼女を見れるのは自分だけらしかった。


 ある日、彼女の枝に花が咲いた。

 平成の世の中に咲き乱れる桜とちがって、真白の小振りな綺麗な桜の花だった。

「綺麗だ」と思わず呟いたとき、はじめて彼女は表情に笑みを浮かべた。

 この世の春をこの場にかき集めたような美しい笑みだ。夢の中の俺はすでに恋落ちていたのだろうが、この瞬間、夢を見ているだけのはずの俺も夢の中の彼女の笑顔に恋をした。


 自分が前世で、どんな生まれでどんな人物で、どんな死に方をしたのかはあまり覚えていない。

 ただ、あの山桜の記憶だけが強烈に残っていた。



 その日、夢を見て起きると、カーテンごしに射し込む朝日に影が射してることに気付く。窓を開けると小鳥がいた。あの彼女の山桜によく止まっていた小鳥と同じ種類に見えるが、その小鳥を図鑑で見たことがないことに気付く。

 大きさはインコほどの大きさで、賢そうな表情を浮かべながらも、ピーチクパーチクと囀ずる声は煩わしい。

 その小鳥は白い花を窓辺に落とすと飛び立っていった。


 彼女の花だ。


 夢の中の彼女が、うつし世でも存在するという証明。



 俺はその夢を見た日の朝は、その情景を細かくメモをして忘れないうちに残すことにした。

 風景、まわりの植物。訪れる動物。


 いつか本当の彼女にたどり着けるように、桜を渡り歩く日々が続いた。




 ある日、なんとなく、小さな駅で電車を降りた。

 電車の窓から見えた山の半ばに、白い桜が咲いているのが見えたからだ。

 山桜を探すならやっぱり春だ。それもすぐ緑に混じって埋没してしまう。桜の咲く時期は毎年友達の誘いをすべて断って彼女を探す。


 改札を出て、山のある方向に足を向ける。

 ふと、視線を感じで顔をあげると、道路標識に見覚えのある小鳥が止まっていた。目が合うと小鳥は飛び立つ。嘴に、白い小さな花を加えている。


 あの小鳥…!


 誘い込まれるように山に入っていく。

 帰り道とかは考えなしに上っていく。


 小鳥はいた。


 空を旋回すると、俺の肩にとまる。


 風が吹き、その中に白い花弁が舞っているのに気づき、視線をさ迷わせる。


 すると、


 夢の中とは違って、立派な大樹となった山桜がそこにいた。



 幹に触れ、真下からその花を見つめる。

 夢の中であんなに触れた一振りの枝はもう見つからない。

 それと同時に、彼女もここにはいなかった。


 もう、何年経っているのかは分からないが、この山桜をみる限り短い年月ではないだろう。


 胸に、ぽっかりと穴が開いた気分だ。


 それでも、「また、明日来るから」と虚空に呟きその場を後にした。



 次の日は入学式だった。

 その日は午前で終わる。そうしたら彼女に会いに行こう。

 そう決意し、気もそぞろなまま高校のはじめての教室で外を眺めていた。

 窓から見える桜は見事だが、あまりに喧しい。昨日ようやく見つけた俺の愛した桜は、もっと慎ましくひっそりと咲く美しい桜だった。それでもついつい桜を見てしまうのは、彼女を探すのがもう常になっているからだろう。

 ぼんやりと、門の前の坂かから上がってくる生徒を眺める。

 どの生徒も桜の花の見事さに笑いながら高校の門を跨ぐ。


 しばらく眺めていると、一人の少女に目を奪われた。

 思わず腰を浮かせる。


 そこに、彼女がいた。

 あの山桜の下にいるはずの彼女が、夢の中のままの美しさでそこに存在していた。自分と同じ新入生だろうか?先輩らしき人に、制服に薄紅の花をつけてもらっている彼女は生き生きとした表情をしていた。


 慌てて教室を出て彼女を探す。


 が、すでに彼女はそこから移動していたらしく、とぼとぼと教室に戻ることとなった。なかなか上手くいかない。俺は机に突っ伏して落ち込んだ。

 復活したのは全校生徒の集まる入学式で、ここで探せば良いんじゃ!と意気揚々とまわりを見渡すが、彼女の面影はない。

 先程みたのはもう幻だったのかもしれないと思い始めていた。


 入学式が終わってすぐ、あの山桜の山に行ったがやはり彼女はいなかった。


 次、彼女を見たのはまさかの次の日だった。彼女は教室にいた。

 まるで、そこにいるのが当たり前だというように自然に存在しついた。もしかしたら自分の妄想なんじゃないかと疑ったが、なんでも彼女は昨日教室に入るとすぐ貧血で倒れて保健室行きになったらしい。復活したのは入学式のあと。俺がさっさと教室を出ていってからだったらしい。俺以外のクラスメイトはだいたい残っていたらしく、結果、昨日会えなかったのは俺ぐらいだったとか。信じられない。

 友人から彼女の名前を聞き出したはいいが、なかなか彼女に話しかけられない。直視することすらむずかしい。

 そう思いつつも視線はついつい彼女の方へ。昼休みになり、彼女に話しかけようと立ち上がるが、彼女が彼女の友人らしき人物に話しかけるのをみていると、決意は霧散し、教室からすら離脱した。

 なんと話しかければいいのかすら分からない。

 同じクラスになったのだ。これからいくらでも知り合える機会はあるだろう。

 そう思いつつ足は中庭に向かう。

 ここにはソメイヨシノとは違う、白い桜が植わっていた。白い桜といっても、彼女とは違う。花をつけながらもところどころ緑の葉が混じるような桜であった。ベンチに腰を掛けて、ぼんやりと桜を見上げる。

 すると、その枝の間から視線を感じた。

 あの小鳥だ。


 こちらを睨み付けると、落ちるように俺の頭に向かって飛び付いてきた。

 クリティカルヒット。小鳥といえども勢いがつくとそれなりに痛い。

 が、小鳥な彼女にも彼女なりに言いたいことがあるようで、おれの手にぐいぐい嘴を食い込ませるようにして、白い花を渡してきた。


 何故だろう。


 頭上に広がる白い桜とほぼ同じような花のはずなのに。俺にはこれが彼女だとわかってしまった。

 と、同時に、教室にいるのも彼女だと、分かるのだ。


 俺は小鳥に向かって頷いた。小鳥も俺に頷く。


 戦に向かうような気持ちで、俺は教室に向かう。確信も、彼女への想いもある。必要なのは覚悟だけだろう。


 入学式の次の日だ。はじめてのお弁当の日だ。とりあえず、話しかける言葉は、ここ、良いですか?とか、一緒にお弁当食べましょうとか、辺りさわりない言葉でいいだろう。


 教室に入り意気揚々と彼女の方に向かう。彼女は向こうを向いていて俺に気づかない。

 俺のこの険しい表情に、教室にいるやつらが訝しげに視線を向けてくる。彼女の友人らしき人物も眉間にシワを寄せてこちらを見てきた。


 彼女もなんだとこちらを振り返る。


 至近距離に、彼女と目が合う。

 心が震える。それこそ、言葉通り、夢にまでみた彼女との対面だ。むしろ夢でしかみたことのない彼女が目の前にいて、息をしている。俺を見ている。認識してくれている。






 そして遂にでた言葉が、

「ねぇ、俺達、前に会ったことあるかな?」だった。


 あまりの台詞に彼女はドリンクを噴き出す。


 もう、穴があったら入りたい。


 窓の外、この光景を見守る小鳥がダメ出ししてるのがよくわかった。



  終

補足

玲也が眞子を認識できたのは、眞子の姿がようやく山桜の精の姿まで育ったから。

風景や見た目で眞子を探す玲也と、魂で玲也を見つけた眞子のすれ違い片思いな話。

男脳と女脳。


小鳥は昔から山桜に寄り添っていたピーチクパーチクな噂好きな彼女。小鳥は仮の姿でどっかの社で縁結びの神様とかもしてる。


ひとまずこれで終わり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ