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その1

我が名ウィレム。


魔道と魔術を修める最強の魔道士だ。


え?本当に最強の魔道士だったら自分で「最強」とか言うわけないって?


ほっとけ


少なくとも、この俺様よりも強い魔道士など、古今東西、今までも一度も見たこともない。師匠にすら五歳の時に超えてしまった。


俺を捕縛しようと数百人の軍勢に囲まれてしまったことも以前あった。しかし、魔力を感知することに長けている俺様は、魔力の高いもの、つまり戦闘力の高い兵士や騎士、従軍魔道士からピンポイントで遠距離から狙い撃ちだ。そして、矢を射かけられても、「障壁」の魔術を展開しているから簡単に避けられる。


数々の魔道スキルをもっているがその中でも使い勝手が良いのは「魔力感知」と「言語読解」に「自由飛翔」そして「時空封鎖」あたりかな。魔術を組み合わせれば大抵のことには対応できる自信があるし、今までもそうしてきた。


谷間の前後を挟まれた俺を、あのいけすかない大公とそのとりまきの将軍どもは、窮地に追い込んだと思い込んだことだろう。しかし、おれには「自由飛翔」がある。


おれはフワリと空に浮かぶと敵の見守る中高笑いと共に飛び去っていく。もちろん、周囲の谷間の岩肌を行き掛けの駄賃に砕いて落盤をおとしておくのも忘れない。俺様って本当に親切なやつだ。


***


さて、ある日俺様の居城に一人の冒険者がやってきた。彼は王の勅命を受けた騎士で魔法の武具で身を固めたちょっとこまったヤツだ。


せっかく遠路はるばる俺様の城まで来てくれたのだから、まずは時空封鎖をつかって彼を封印してみることにする。


よっしゃ、奴はまんまと罠にかかって時空封鎖にかかった。ついでに異空間につないで自分の城に被害が及ばないようにしておこう。時々、冒険者の中にはむやみやたらと破壊力の高い武器や魔術を使ってくるやつがいるからな、念には念を入れておかなければ。


とりあえず、おきまりのやつをやっておくか。


おれはこの冒険者の前に次元反転で作り出した鏡像分身を送り込んだ。


うおっと、いきなり切りかかって来やがった。むかつくので荊の蔦で手足を雁字搦めにからめとってやった。


「この俺様の城に何の用だ」


「魔王ウィレムだな。卑怯だぞ離せ。オレは正義の騎士アーカット。国王様の命に従い貴様を倒しに来た」


・・・。


いるんだよ、こういう面倒なやつらが。


思い込みが強いし、報道の自由もないから又聞きの又聞き、伝聞が伝聞を呼んで事実はどんどん捻じ曲がっていくんだ。


「俺様が何をしたって言うんだ」

「うるさい、魔王ウィレム!おとなしく死ね!」


そう言うとアーカットと名乗った若者は剣と盾を振るった。

せっかくの荊が断ち切られた。


こういう話しを聞かないやつらはどうすることもできないから殺してしまいましょう。


面倒なのでおれは魔術の炎に風の刃と雷撃のトリプル攻撃をかけた。


あっけなくアーカットとやらは倒れた。倒れたが、その瞬間やつの胸元の水晶球が割れて中から爆発的な勢いで大容量の魔力が溢れた。


あ、やばい。この魔力暴走だと空間が維持できない・・・


そう気づいた瞬間には本体のほうの俺様が鏡像分身に引っ張られた。


必死になって持てる全ての魔力を使って次元境界の綻びを修復しようと魔力を展開したその時・・・


光が弾けた。



***



ん?


ふと気づくと俺様の目の前に全裸の少女がいる。


「きゃーー」

バシッッ!!!


振り抜かれた右拳によって俺様の意識は刈り取られた。


ばしゃーん、と水に落ちる音が遠くに聞こえた。


***



ん??


ふと気づくと俺様を一人の少女が上から覗き込んでいる。俺様も彼女も水でぐっしょりと濡れている。どちらもずぶ濡れだ。水の流れる音が聞こえ、俺様は冷たい川の水面に浮いている状態だ。


よくわからないが、どうやら俺様はこの少女が水浴びでもしているところに出くわしたのだろう。


次元境界面の隙間からこぼれ落ちた先が岩の中などでなくて良かった。


アーカットとの死闘において受けたキズが結構キリキリと痛む。


とりあえず立ち上がろうと身をもがいたとたん


「起きちゃだめー!」

バシッッ


・・・・く、この娘は一体何を考えていやがるんだ。


俺はふたたび意識を手放した。


***


・・・。


ふと気づくと、今度はやわらかいベッドの上にいた。


ずぶ濡れだった服は脱がされ、上半身裸だ。


「俺様はどうしたのだ?」「俺様は何をしていたっけ」「俺様の名前はなんだっけ」などのありとあらゆる疑問が頭を横切った。


無防備にも全ての魔力障壁すら解除されてしまっている。


なにはともあれ、今度は低位の魔力障壁を展開しておいた。先程のように殴られる程度で意識を刈り取られることはないだろう。


起き上がろうと身をもがいてみた。


今度はだれも殴りかかってこなかったのでなんとか起き上がることができた。


見回すとここは薄暗い、古びたカビの匂いのする部屋だ。


ロウソクの明かりがフラフラと揺れている。


窓から差し込む月明かりもどことなく頼りない。そして今が夜であることを告げていた。


部屋の隅には古びた机があり、壁の本棚にはたくさんの同じく古びた、まるでたっぷり百年は放置されていたような本がぎっしりと、そして整然と詰まっている。どことなく閉ざされた記憶の檻をくすぐるものがある。


俺様はよろけながらも立ち上がり、古びた机に近づいた。オーク材で作られた頑健な机には同じく頑健な造りの椅子があった。そのカビた椅子に腰掛ける。


手を伸ばすとすぐにパイプが手に触った。


机の引き出しの一つを無意識に開け、中から煙草の葉を取り出してパイプに詰める。着火の呪文を唱えて小さな火種を作り出し、パイプをふかしてから肺の中にいっぱいに煙草の煙を吸い込んだ。


なつかしい感じだ。まるで自分の家にでもいるような・・・。


そうだ、ここが自分の家だ。俺様の城の塔の天辺の書斎だ。


だが、この古びた、確実に百年は自分より歳をとってしまった机はどういうことだ。そしてこの椅子は!!




コツコツと、塔の階段を何者かが登ってくる音が聞こえた。


しかし、あの頭の悪いアーカットとかいう騎士から結構な深傷を負っていた俺様は椅子に座ったまま身動きもできない。


コツコツ・・・


足音は近づいてくる。もうすぐ扉のそばだ。


口の中が妙に渇いた感じがする。


ギィッ、ギィ〜〜〜


扉が悲鳴を上げながら開いた。


淡い光が部屋を照らす。

あの少女だ。ランタンを手に持っている。


少女はランタンをかざし、俺様が椅子に座っているのをみると驚いたように小走りに近寄ってきた。


「もう大丈夫なの?ベッドに寝て休んだ方がいいわよ?」


少女の言葉は俺の前を虚しく通り抜けた。


痛む自分の身体のことはともかく、自分と、この部屋の関係と、なぜこの部屋がこのように古びてしまったか、なぜこの少女が自分の城にいるのかの方が気になったからだ。


「あなた、怪我人なんだから。はい、お水。はい、お薬・・・へへー、この薬、おばあちゃんの寝室から取ってきちゃった」


「貴様、何者だ?」

「え?」


俺様の質問に少女は目を見張った。


「貴様はいったい何者なのだ?なぜここにいる?」


俺様はできるだけ威圧的に、声を低めて言った。ただし、生まれつきのにやけた顔はどうにもならない。


少女は青ざめた表情で一歩下がった。


おれさまはもう一度問いかけた。


「君はいったい何者だね?この私、大魔導士ウィレム・デスリアードの城で何をしている?」

コツコツ


この塔の階段、やけに足音が響くわね。


私、トーヤ公の次女で第二公女エリカはいつもそう思う。


お盆には水差しと、おばあちゃんの寝室からくすねてきた薬が載せられていた。


私は扉を開くと、成り行きで助けてしまった男性を監禁している部屋の扉を開けた。


ランタンの灯りを近づけるとその青年はべっどから起きて机のところに座っていた。それもパイプをでタバコを吸っていた。


驚いて私は駆け寄った。


「もう大丈夫なの?ベッドに寝て休んでいたほうがいいわよ」


私はベッドの脇のサイドテーブルにお盆を起きながら言葉を続けた。


「あなたは怪我人なんだから。はい、お水。はい、お薬。・・・へへー、この薬、おばあちゃんの寝室からとってきちゃった」


わたしがそう言うとその青年は静かに言った。


「貴様・・・何者だ?」


「え?」青年の突然の質問にわたしは喉をつまらせる。


さては、バレたのかしら。


わたしの心の声を聞いたかのように青年は繰り返し質問してくる。


ただし、その青年の表情はなんだか笑っているように見えた。


やっばー。このひと笑ってる。さてはわたしがトーヤ公の娘だって知ってるんだ。ということはこの館の使用人なのかしら。センスは最悪だけど身なりも良かったしひょっとしたら王都から来た代官か何かかもっておもったけど、もし、使用人だったら、この部屋が立ち入り禁止だってことも知ってるわね。


どうしよう?開けてはいけない、禁断のこの部屋に入ったことがお父様にバレたら。


わたしがたちつくしていると、青年は言った。


「君はいったい何者だね?この私、大魔導士ウィレム・デスリアードの城で何をしている?」


え?このヒト何を言ってるのかしら??

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