僕のシャツ
突如現れたちんまい神様。どんなお方なんでしょうかね。
今日田園都市線の三軒茶屋駅で二時間突っ立ってて危うく有名人になりかけました(テレビに移る的な意味で)
「ほぉ.....非常に面白いねこれは。どういう事なんだろう」
栗原がちょいちょいと俺のシャツをつつく。やめてくれ、くすぐったい。一方シャツの中で飛び回るのは銀髪の獣耳少女。耳の形からして...狐だろうか?いや、まぁ正確な事は分からないんだけど。
「おもしれえなこいつ.....」
興味深そうに桜田が俺のシャツを見つめる。まだすこし怖がっているのか触ろうとはしないようだ。
「・・・・で、君等は僕に何の用なのかな?まぁ、きっとこの完璧な僕の姿を見たい、僕に触れたいって事なんでしょうね」
銀髪少女が喋りだした、何の前触れもなく急に。しかも内容がナルシストというこのインパクト。
「お、黙ってしまいましたか。ふふっ、だがそれも仕方無いですね。なんせ僕は辺界では1、2を争う美声だったんですから。この僕の容姿とそして完璧なこの声。酔いしれてしまうのも仕方無いですよ....」
そういって彼女はしゃなりとポーズを決めた。ん、んん.....非常に対応に困る個性をこのお方はおもちのようだ。他の三人も僕と同様に固まっている。困惑してるみたいだ。
「ほら、僕の事を誉め称えてくださいよ。可愛いって、言ってみてくださいよ?さ、ほらほら遠慮せずに。僕のこと可愛いって」
僕を含めて三人がさらに表情を堅くする。その内訳は僕、桜田、そして栗原。三上はどうしてるかって?なぜか自分のカバンをごそごそと探っている。何か探してるようだけど....あ、見つけたみたいだ。
「ね、ね、ぼーろ食べる?」
そういって三上がカバンから卵ボーロを差し出した。卵ボーロ。みんなもちっちゃい事に食べた事があるであろうあのちっちゃくて丸いお菓子だ。
「ぼ、ぼーろ.....だって.....!?」
シャツから驚く様な声が聞こえた。そっと見下ろしてみる。わぁ、目輝かしてますよこの方。シャツの中にいるからだからなんだろうか、目が漫画のように煌めいている。中にダイヤが入っているような感じだ。
「も、もちろんだともっ!!さぁ、この可愛い僕に早くその素晴らしいお菓子を捧げるんだ!!!」
涎をたらしながら必死に頼み込むちっちゃな付喪神さん。なんだこの反応は。地味に可愛いぞ。
「あ、でもどうすれば良いんだろ....シャツの中に流石にボーロ入れるのは...ねぇ?」
三上が思案顔で僕の事を見てくる。いや、こちらに助けを求められても困るんだけどな...。
「こ、こいつの服の前にかざしてっ!!そうすれば後はどうにでもなるからっ!!」
もう我慢できないと言った様子だ。涎が滝のように口から流れ出している。・・・・人のシャツの中で涎垂れ流すのは勘弁してください。嫌そうな顔をしている僕を無視してシャツの中で彼女は飛び跳ね続けている。
「えと、かざせば良いのかな....?」
おそるおそる三上が僕のシャツにボーロの袋をかざす。周りから見たら凄い構図なんだろうなぁ...。
ボーロの袋がぴかっと光り、三上の手の中から消える。と、ほぼ同時に服の中からぽりぽりという音が聞こえてきた。あ、食べてますね。見た事がない様なもう最高の笑顔で。僕の服についた付喪神さんが。
「ど、どう?おいしい?」
「ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり」
三上の問いかけを無視してひたすらボーロを食べ続ける銀髪さん。静かな部室にひたすらボーロを食べる音がなり続けた。ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり。
「.....あれ?もうないんですか....はぁ、この僕をこうも夢中にさせるなんて...罪なお菓子です」
そういって彼女は空になったボーロの袋に愛おしそうにほおずりをした。
「さて....そろそろ良いかな?」
先ほどまで表情の推移が停まっていた栗原が、やっと動き出す。すこし時間が経ち頭の整理がついたようだ。
「ん、君、僕に質問ですか?いいでしょう、なんでも聞いてくださいよ。この可愛い僕に」
ドヤ顔で答える付喪神。さっきまでのだらしない表情はなかった事になりそうなくらいの気持いいドヤ顔だ。
「そうだね...まずは名前を教えてもらおうか」
「名前か....僕の名前は川崎恵。どうですか?綺麗な響きの名前でしょう」
相変わらずのドヤ顔。その割には意外とふつうの名前なんですね.....。
「よし、次だ。いつから君はこの教室の床についてたんだい?」
「そうですね、僕がここに配属されたのは30年くらい前です。あの頃は暇でしたね...ここは物置でしたから」
結構前からいるんだな...。僕らが生まれる前じゃないか、流石は神様。
「配属...という事は恵は何か組織にでも所属してるのかい?」
「ん、ああそのことですか?そうですね、それは......」
最終下校時刻の鐘がなり、部活の終了を告げる。その言葉が川崎の答えをかき消した。
「ん....もうこんな時間なんだね。帰らなければ....」
栗原がいう。日ももうななめに傾いて空はオレンジ色だ。
「ってちょっと待って。僕はこの小さい神様をどうすれば....」
今更の様な問題提起。そもそも何で僕のシャツにこのちんまいのがついているのか。
「いや、お前が管理するんだろ?お前のシャツについてるんだから」
当然のように桜田に返される。え、ちょちょちょちょちょい待ってください。僕無理矢理このシャツに付喪神憑依させられたんですよ。なのに何故僕が管理する事になって「じゃ、じゃーねみこと!!」バーン。
三上がカバンをもって教室から駆け出していった。僕の考えがまとまる前に。
「じゃ、そういう事で。また明日な、少年」
栗原さんが清々しい笑顔でそういって、部室を後にした。気づけば桜田も消えている。
え.....これって僕がやらなきゃいけないの.....?
「ん、君が僕の世話とかしてくれるんだね?ふふっ、君も僕の世話ができるなんてラッキーですね。じゃ、これからよろしく♪」
きっとこの何故かもう既に僕に世話になる事前提で話してるこの神様が神様が元凶のはずなんだけど。
「ほらほら、どうしたんです?早く帰りましょーよ♪」
.....抵抗しても無駄な気がしてきた。それに僕のシャツに憑いてるんだから突き放す訳にも行かない...。
連れ帰るしか...ないのかな。ため息をついて僕は諦めた。
あ、今更なんですけど主人公は八代尊←やしろ みことって読みますんでそこんところをよろしく