パートナーってどうしたらいいのかしら
「気にすることなんかなくってよ、レオに婚約者など存在しません」
「そうなんですか?」
私達の国では、割と幼いころから婚約者を決めておくことが普通だ。だから乙女ゲームの攻略対象者たちにはすべからく婚約者が設定されていた。
その婚約者を捨て、ヒロインを選び取るというストーリーも人気の所以だったはずだ。
ああでも、レオさんは攻略対象者ではなかったから……だからなのかしら。
「貴女だってご存知でしょう? 我がハフスフルール家は変わり種だって」
「あ、なるほど」
「親から決められた婚約者があろうとも、本人がこれと決めたら、交渉なり実力行使なりを考えるのが我が家に生まれた者の特性ですもの。バカバカしいから元より決めないのですわ」
思わず笑ってしまった。なんともハフスフルールの一族らしい。
「ところで」
「はい」
「クリスティアーヌ様は、今年の紅月祭、誰のエスコートを受けるつもりなのです?」
「えっ……」
突如問われて、私は書類を繰る手が完全に止まってしまった。
考えてすらいなかった。そうか、これまでは無条件でグレシオン様……殿下のエスコートを受けていたわけだけど、今年はもちろんそういうわけにはいかない。
紅月祭は絶対にエスコートが必要というわけではなくて、庶民の子なんかは単独だったり友達同士で和気あいあいと参加する例も多い。
ただ、貴族はエスコートを受けて参加するのがほとんどだ。
うわ、これは困った。ルーフェスには婚約者がいるしなあ。
「そう……ですね、困りますね。グレースリア様って、昨年まではどうされていたんですか?
「私? レオに頼んでいたわ」
そうか、従兄妹同士ですものね。いいなぁ、レオ様か。
「ふふ、パートナーが決まっていない事だけは理解できましたわ」
なぜか満足そうにグレースリア様は微笑んでいらっしゃるけれど、むしろ気づきたくなかった。
女性からエスコートしていただけるよう働きかけるなんて無粋でできるわけがないし、このまま憂鬱だと思いながら過ごすだなんて。
「そんなに困った顔なさらなくても大丈夫ですわ。私、クリスティアーヌ様にエスコートを申し出そうな殿方に、心当たりがありますもの」
「私は思い当たりませんが」
「ええ、ちょっとお尻を叩かないとならないと痛感しましたわ」
なぜにグレースリア様が握り拳を作っているのか分からないけれど……そうか、未来の王妃として既にそのあたりの情報も把握していたりされるのかしら。つくづく自分との器の違いを感じるわ。
「とにかく、クリスティアーヌ様はゆったりと構えていらっしゃいな」
優雅に微笑みつつ、書類処理の手だけは高速で動いているグレースリア様を感動しつつ眺めながら、私はあいまいに頷くことしかできなかった。