お慕いしている方って誰?
「まあ、それでレオったら急にこんなに長期間学園を空けているんですの!?」
「ご、ご存知なかったんですね……」
怒り心頭なご様子のグレースリア様に、思わず私の首もちょっと竦んだ。
レオさんったらガレーヴ村に行く事をまさかグレースリア様に話していなかっただなんて。私、想像もしていなかったから……話さない方が良かったんだろうか。
疲れて帰ってくるであろうレオさんが、グレースリア様にしたたかに怒られているところが既に目に浮かんで、申し訳ない事をしてしまったと身の縮む思いだ。
「クリスティアーヌ様がそんなにバツの悪い顔なさる必要はなくってよ!」
思わずシュンとしてしまった私に、グレースリア様が活を入れる。
「レオが抜けることで想定以上に生徒会の仕事がまわらなくなって!あげく、この私に急きょ救援要請がくることに考え至らなかったレオが悪いのですから。ついでに言うと大丈夫だろうという甘い考えで許可した殿下も殿下です。少しはマシになったと思っていましたが、時間管理能力はまだまだですわ!」
グレースリア様は言葉が途切れる隙も無いほどにぷりぷりと怒りつつも、なぜか私を慰めてくださる。
でもどう考えても、本人が言わなかったことを私から伝えてしまったのは失態だ、ごめんなさいレオ様。そして殿下。せっかく上がってきていた殿下の株まで下げてしまった。
「言っておきますが、状況が掴めないままでこのまま生徒会の仕事を延々手伝わされて、レオがノホホンと帰ってきたら今の怒りどころでは済まなくってよ」
言われて、確かにそうかもと思いなおす。急きょ救援依頼をかけられて大わらわのグレースリア様に、さらにヘルプ頼まれたのが私なんだから、おっしゃることも分かるというか。生徒会って書類仕事がこんなにも多いのね。
「むしろレオにとってはクリスティアーヌ様は救いの神のようなものでしてよ。帰ってきたらプレゼントの一つや二つねだってやるといいんですわ」
「まあ、そんな事。レオ様をお慕いされている方に失礼ですもの」
いたずらっ子のように片目を瞑って冗談を飛ばすグレースリア様にそう返したら、ものすごく怪訝な顔をされてしまった。
「誰? レオをお慕いしている方、って」
「え? 誰とは私もわかりませんが……この学園の生徒に、とても人気があると皆さまから聞いたものですから。もしかしたら婚約者もおいでになるのかも知れないし」
「やだ、あきれた。レオったら」
口元に手をあてて、切れ長の目を大きく見開いているグレースリア様はいつもよりも幼い表情に見えて、なんだかとても可愛らしい。
グレースリア様のこんな飾らない表情を見せていただけるのは、役得だと思う。