目的があるんだ
「まあ、紅月祭は食事に凝るからな、気持ちは分からんでもないが。それなら自ら行かずともそれこそ商隊を頼んでその時期に手に入るようにした方が無難だろう」
「食材を手に入れるだけなら、もちろんそうさ」
「というと?」
「マークには話したっけ? 俺さ、侯爵位をねらってるんだ」
「は?」
突然のカミングアウトに、マークさんは鳩が豆鉄砲を食らったみたいにポカンと口を開ける。
「あ、その驚き加減じゃ俺、言ってなかったみたいだな」
「いや、まあそう大っぴらにいう事じゃないだろう」
屈託なく笑うレオさんとは逆に、マークさんは気まずそうに口元を歪めた。
「そういう事は、こんな誰が聞いているかわからないような場所で軽々に口にするもんじゃない」
厳しい口調でたしなめるマークさんに、レオさんは笑って「大丈夫、大丈夫」と請け負った。
「みんな知ってるし、なんなら俺が狙ってる家の家長も知ってるし」
「どういう事だ」
「俺ん家さ、ハフスフルール侯爵家の傍流なわけよ。で、ハフスフルール侯爵家の一人娘が嫁に出ることになったから」
「ああ、跡継ぎがいなくなるのか」
「そうそう、そんで今、我こそは! ってヤツがこぞって名乗りをあげてるんだ」
そこまで聞いたら元貴族のマークさんには概ね事情が理解できたらしい。にやり、と楽し気に口元を歪めた。
「ハフスフルール家は馬鹿がつくほどの実力主義だったな。力を示せ、とでも言われたか?」
「ご明察」
「フ、あの狸おやじらしい」
分かりあってしまったらしい二人は、目を合わせて互いにニヤリと笑みを交わした後、盛大に笑い始めた。きっと二人の脳裏にはハフスフルール侯爵が浮かんでいるのだろう。
ひとしきり笑って、レオさんは急に真顔になった。
「俺はね、マーク。絶対に侯爵位が欲しいんだ。でも既に政治の世界で頭角を現してるやつらに、学生の俺がそうやすやすと追い付けるわけでもない」
「ま、そりゃそうだろうな」
「だからこの紅月祭を大成功させることは必須だと思ってるし」
「確かに。貴族は誰も皆、学園の卒業者だからな、紅月祭の出来には思い入れがある。見る目が厳しくなるのは仕方ないだろう」
「そういう事。ついでに学生でも何かしらの問題解決……少なくとも解決案の提起ができるところを見せておかないとマズイと思うんだ」
「まあ、そうだな」
「頼むよ、マーク。この地域の安全や早く移動できる流通ルートを確立できれば、結構一目置かれるんじゃないかと思うんだ」
「その為の視察も兼ねているという事か」
顎を撫でながら考えをまとめていたらしいマークさんは、ひとしきり唸った後、「わかった。いいだろう」と重々しく頷いた。