現れたのは
嬉しくて、内心小躍りしそうになった。
「それに、一手一手に重さがでるようになったのはいい傾向だ。前は何とか型を思い出して対応するってのが関の山だったから、簡単に跳はねのけられるし、力づくで無効化できるレベルだった」
私の手刀を受けた手を軽く振りながら、マークさんがいつものように左の口角を軽く上げてニヤリと笑う。
「攻撃に重さが乗れば相手に与えるダメージもデカい。なかなかいい反撃だった、型が身について来た証拠だな」
こんなに嬉しい事あるかしら! 今日は帰ったらさっそくシャーリーに報告しなくては!
これまであの子がずっと文句も言わずに訓練に付き合ってくれたから、私、少しづつでも上達できたんですもの。
嬉しくって思わずマークさんを投げ飛ばす手にも力が入る。マークさんの大きな体が宙に舞い、路地に転がされて土埃があがったところで、軽快な拍手が聞こえた。
「おー、凄いねクリスちゃん!」
どこかから、聞きなれた声が。
振り返れば、トレードマークの赤毛がふわふわと風に揺れている。
「レオさん! どうして、ここに?」
「特訓してるって知ってたからさ、ちょっと激励に」
楽しそうに笑って、レオさんは冷たい飲み物がのったトレイを差し出してみせる。トレイの上では、氷がふんだんに入ったミント水がグラスにたくさんの水滴を光らせていた。
「やれやれしょうがない、少し休憩するか」
マークさんの言葉で、私もようやく全身から力を抜く。
確かに少し喉が渇いていたみたい。ミント水にはレモンも落としてあるみたいで、爽やかな香りとスッキリした味が運動後の体に心地いい。
コクコクと勢いよく水分を補給する私の横で、マークさんは「なんでお前もセルバも邪魔しに来るんだ、集中できん」とぼやいている。
確かに、マークさんとの特訓の時って来客が多いわね。
「まあまあ、実はマークにも用があって来たんだ」
「用? お前が?」
人懐っこい笑顔でレオさんが言うと、マークさんは少し警戒したような表情を見せた。
「ああ、クリスちゃんも一緒にいいかな」
聞いていい話なのか判断しかねて、ジワリと後ろに下がったのがバレたのだろうか、レオさんにくぎを刺されてしまった。もちろん聞いていいのならば、私も特に問題はないのですけれど。
お店へと続く裏口の階段に、レオさんがさりげなくハンカチを広げてくれたから、お礼を言ってそのまま腰かける。レモン水を口に含みながら、私は黙って話に耳を傾けた。
「マーク、急な話で悪いんだが、辺境の村ガレーヴまで護衛してくれないか?」
思いもよらないお話に、マークさんは訝し気に首を傾げた。
私も驚きを隠せない。護衛って……レオさんの護衛よね。
レオさん、ガレーヴに行くの? 学園は? 忙しいって目の下にクマを作っていたというのに、無茶じゃないのかしら。